【横塚裕志コラム】IT化は取り組めても「デジタル化」ができない日本企業 その①

前回から「正しいDX」を進めるうえでの課題を考えている。
今回からは、正しいDXの定義「DXは単にデジタル技術を導入することにとどまらず、ビジネスそのもののあり方や価値観、組織文化、顧客との接点などを深く変えていくことを指す」のなかで、「ビジネスそのもののあり方を変える」というテーマについて考えることにする。

「ビジネスそのもののあり方を変える」ための重要な方法の一つが「デジタル化」だ。しかし、この「デジタル化」が難しい。そこでまずは、「デジタル化」に関わる現状と課題を考えてみる。

Ⅰ.「デジタル化」ができていない現状

現状の手続きを一部ITに置き換える「IT化」は取り組めても、デジタル技術を使って現状の手続きを仕組みから変革する「デジタル化」ができない日本企業が多い。「IT化」では大きな効果は望めない。企業の競争力を上げるためには「デジタル化」が重要だ。問題と思う現状を以下に列挙してみよう。

1. IT投資スキームの問題
各事業部門からIT化要請を行い、それを受けてIT部門がソフト開発を行う方式の企業が多いが、このスキームをとると、以下の状況にならざるを得ない。

  1. 税制などの外部事情に合わせた修正や既存プロセスの小規模な改善が多い
  2. 各部門の中での改善に留まり、仕組み自体を改革するテーマや、部門横断の効率化テーマが俎上に上がらない

2. IT化プロジェクトを企画するビジネス側の問題
ビジネス部門はデジタルの本質を理解していないので、現状のプロセスをベースにしてしまう。

  1. 現状プロセスの一部をITに置き換える発想しか生まれない
  2. IT化後のTO BEモデルを構造的に描くことをしないし、他部門との関係に配慮することもしないので、本質的なデジタル化議論が起こらない

3. 部門横断の業務プロセス改革を目的とするプロジェクトがない
各事業部門に属する小さな現場単位で改善活動を行っても大きな効果は出ない。全社を最適化する視点で、例えば、部門を横断した顧客との業務プロセスを改革する活動などが必要だが、それを担当する部門がない。 結果、以下のような課題がある。

  1. ホワイトカラーの業務を分析する部門がないから、生産性が上がらない
  2. 全社横断で全体のプロセスを可視化することをしないから、重複作業が発生したり、実は無駄な作業をしていたり、問題に気がつかない
  3. サプライチェーン、デリバリーチェーンも含めたサービス全体のプロセスを可視化していないから、外部の企業との重複業務、意味のない業務が発生している

4. 顧客との接点を持つシステムのUXがよくない
顧客との接点を持つシステムを開発する場合、既存のアナログ手続きをそのままITに置き換えることしか発想できない。結果、ビジネスプロセスやカスタマージャーニーでの顧客の体験状況に誰も関心を示さず、放置されている。 結果、以下のような課題がある。

  1. 顧客との接点を少しずつIT化していくが、その複雑さや使いにくさがかえって顧客にストレスを与えているケースが多い
  2. 細分化された部門ごとに顧客との接点を持つので、統合化された顧客サービスにはならない
  3. デジタル発の新しい企業に市場を奪われかねない

5. ERPを導入しても、既存プロセスを維持するので、コスト高で効果なし
ERPを導入する趣旨は、本来、そのERPが目指す業務プロセスに合わせて自社の仕事を変容する作業なのだが、既存のプロセスを維持し、ERPを大きく修正してしまう。従って、修正コストがかかるうえに、合理的な業務プロセスにもならずにERPを導入する効果が出ない。
結果、以下のような課題がある。

  1. グローバルにプロセスを標準化しようとするも、日本だけ別物になり、経営指標が異なる問題や人の代替性に欠けるなどの問題がある
  2. 現場にとっては、従来の個別のシステムより使いにくいシステムとなり、不満がたまり、非効率となっている
  3. ERPを導入することさえ、とん挫するような大きな問題を引き起こしている企業も散見される

Ⅱ.IT化に関わる現状の評価

上記の現状は、多くの企業で起こっている現象ではないかと推察している。この状態では企業としてITを効果的に活用できていないので、実は大きな経営課題なのだ。経営はそれを理解しているのだろうか。この問題は、私も長年ITに関わる仕事をしてきた者として責任を感じている。いくつか思うところを書いてみる。

  • それぞれの企業で、これらの問題を解決すべく行動していることは事実だ。現役のころ、私たちの会社でも多くの施策を打ってきている。しかし、これらのスキーム自体を大きく改革できたかと言うとそうでもないというのも事実だろう。
  • 第1次オンラインから始まって、第2次・第3次と大型計画を実施してきたときは、コーポレートにそれを専門とする部署を設置し、全社のプロセス改革を実行してきた経緯にある。そういう体制を、再度継続的に構築すべき時なのではないかと考えるが、DX推進室がなぜかその役割を果たせていない状況が残念でならない。
  • 一方で、企業の生産性を「平均給与」という指標で国際比較してみると、2000年を100として、2022年には日本は0.98、米国は1.99、ドイツは1.62と大差をつけられている。事情はいろいろあるだろうが、2000年からまさにデジタルの時代になってから停滞している日本は、デジタル化が不得意という要因が大きいのではないだろうか。
  • にもかかわらず、日本ではシステム開発の技術の議論はあっても、デジタル化できていないという経営問題としての議論が少ないように思う。政府・ベンダー・メディア・ユーザー企業、丸ごと「「既存プロセスのIT化」しか頭の中にないのかもしれない。問題に気づいていないのかもしれない。DX人材とかリスキルとか、IT技術の習得にしか関心がない状態がそれを示している。

どのようにすれば「デジタル化」ができる企業になるのか。かなり深い問題だと思うが、次回以降も続けて考えてみようと思う。

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