前回まで、「デジタル化」の手順の中でも特に「抽象化」について掘り下げてきた。今回は、「デジタル化」の担い手について掘り下げていこうと思う。
まずは、「デジタル化」の手順を再掲する。
1. 現状の業務プロセスを理解する
2. 課題を抽象化する
3. 目標設定と効率化の方向性を決める
4. デジタルツールやシステムを選定する
5. 新しい業務フローを設計する
6. デジタル化の実行・導入
7. 業務運用後のモニタリングと改善
これが実行できる人材は誰だろうか。問題を抽象化することで本質的な課題を分析することは、たぶん通常の企業人ではかなり難しい業務だ。
Ⅰ.「ビジネスアナリスト(BA)」の存在と役割
欧米では、この業務を「ビジネスアナリスト(BA)」というプロ人材が担当している。「デジタル改革」という業務は、現場の観察・課題の抽象化・改革案の策定・デジタル化の方針作成・デジタル化の実行と幅広い業務であり、ビジネスからデジタルまでの多くのスキルと本質を掘り下げる思考力、そして多くの関係者とのコミュニケーション力など、高度な専門能力が求められる。誰でもできる仕事ではない。
「ビジネスアナリスト(BA)」は、大きく3つの役割を持つが、その一つである「問題解決中心タイプ」の役割を以下に示す。
- ビジネスの問題を正確に把握する
ビジネスアナリストは、組織が抱える問題や課題を深く掘り下げる。ビジネスアナリストは関係者と連携し、事実に基づいたデータを収集して、根本的な原因を特定する。
例:営業チームのパフォーマンスが低下している場合、ビジネスアナリストは、原因がトレーニング不足なのか、プロセスに問題があるのか、あるいは市場環境に関連しているのかを明確にする。
- 業務の効率化と最適化
ビジネスアナリストは、業務プロセスやシステムを分析し、効率的で効果的な方法を提案する。既存の業務フローに無駄や改善の余地があれば、それを指摘し、最適化案を提供する。これにより、コスト削減やリソースの最適配分が実現でき、企業の競争力が高まる。
例:顧客からの問い合わせ対応に時間がかかりすぎている場合、ビジネスアナリストはそのプロセスを分析し、どこに改善点があるかを見つけ、効率化のための手段を提案する。
- 変化への対応とリスク管理
ビジネス環境は常に変化している。技術革新や市場の変動に迅速に対応するためには、柔軟で適応力のある戦略が求められる。ビジネスアナリストは、組織が新しい状況に適応できるように支援し、必要な変更や改善策を提案する。
例: 新しい競合が市場に参入した場合、ビジネスアナリストは競争力を強化するための戦略や新しいプロセスを提案し、企業が市場の変化に対応できるようにする。
- 戦略的な意思決定をサポート
ビジネスアナリストは、経営者が戦略的な意思決定を行う際に、データや洞察を提供する重要な役割を果たす。市場調査や業界のトレンドを分析し、どの方向に進むべきか、どの投資が最も効果的かを明確にする手助けをする。
例:新しい事業領域への進出を考える場合、ビジネスアナリストは市場調査を行い、競争状況や顧客のニーズを把握した上で、どのタイミングで参入すべきか、どのリソースを投入すべきかを提案する。
- コスト管理とROI(投資対効果)の最大化
ビジネスアナリストは、リソースの無駄を減らし、投資対効果(ROI)を最大化するためのアドバイスを提供する。新しいプロジェクトやソリューションがビジネスにどのように貢献するかを評価し、企業が最適なリソース配分を行えるよう支援する。
例:新しいシステムの導入を検討している場合、ビジネスアナリストはそのシステムがもたらす効率化効果やコスト削減のポテンシャルを計算し、経営者に対してROIが高いかどうかを示す。
- コミュニケーションと調整
組織内外の関係者との調整役としても、ビジネスアナリストは非常に重要。異なる部門やチームが協力して目標を達成するためには、円滑なコミュニケーションと調整が必要だ。ビジネスアナリストは、ステークホルダー間のギャップを埋め、全員が同じ目標に向かって進むための支援を行う。
例:営業部門と開発部門が異なる目標を持っている場合、ビジネスアナリストはその調整を行い、両者が協力し合えるようにコミュニケーションを円滑にする。
Ⅱ. 「ビジネスアナリスト(BA)」の「システム要件型」の役割
「ビジネスアナリスト(BA)」は、大きく3つの役割を持つが、その二つ目の役割「システム要件タイプ」を説明する。ビジネスからの要請とシステム開発との間には深い溝があり、両者の考えを理解し両者が満足する策を企画する役割が必要だ。これも、重要なBAの役割だ。
- 要件の分析(Requirements Analysis and Design Definition)
役割:収集した要件を整理・分析し、実現するための具体的な設計案を策定。
- 収集した情報をもとに、要件間の関係性や優先順位を明確化
- 要件を機能的要件、非機能的要件、ビジネス要件などに分類
- ソリューションの設計案を立案し、それがビジネスニーズにどれほど適しているかを評価
- 必要に応じて、プロトタイプを作成して、ステークホルダーからフィードバックを得る
- 要件の管理とトレーサビリティ(Requirements Life Cycle Management)
役割:要件がプロジェクトの進行に応じて適切に管理されるようにする。また、要件の変更や優先順位の変更があった場合にも、影響を分析し、トレーサビリティを維持する。
- 変更管理プロセスを実施し、要件の変更がプロジェクトに与える影響を分析
- 要件がすべてのプロジェクトフェーズで一貫して適用されるように管理
- 要件の追跡(トレーサビリティ)を行い、要件が開発・テスト・納品の各段階で適切に反映されているか確認
- 解決策の実行支援(Solution Implementation Support)
役割:提案されたソリューションが実際に導入される段階で、ビジネスアナリストはその実行支援を行う。
- 新しいシステムやプロセスの実装時に、必要な変更管理やトレーニングの支援
- 導入後のユーザートレーニングやサポートを提供し、定着を支援
- ソリューションが実際の運用で適切に機能するかどうかを監視し、必要な改善を提案
もう一つ、ビジネスアナリストの役割「顧客価値タイプ」があるので、それを次回に考えてみる。