【横塚裕志コラム】月末締め・翌月末払い を まだやっている日本

日本企業の決済では、「月末締め・翌月末払い」がほぼ常識のように定着している。取引を当月末で締め、翌月末に請求金額をまとめて支払う経理処理方式だ。デジタルを専門とする会社でもこのバッチ型スケジュールなのでびっくりする。企業の経理部門にとってはスケジュール管理を簡素化する仕組みかもしれないが、多くの問題をはらんでいるように思う。

1.問題点

(1)取引先の資金繰りを悪化させる

月中に請求書を出しても、その翌月末にならないと振り込まれない。発注側は資金繰りを有利にできるが、下請けや中小企業、個人事業主にとっては資金が入ってくるまでの時間が長く、経営的なリスクが大きくなっている。
特に、以下のような方々は、その間の家賃、生活費、仕入れ資金で困っている。

  • フリーランスや副業者(特に女性・子育て世代)
  • 地方や外国籍の起業者
  • スタートアップや小規模NPO

結果として、優秀なパートナーや取引先を逃してしまう可能性を秘めている。
欧米では「Net 15」「Net 30」といった支払い条件が一般的で、請求書の発行から15日〜30日以内に支払うという明確な基準が存在しているようだ。さらに、フリーランスや個人事業者への支払いは即時や前払いが珍しくないとのことだ。

(2)企業内でも問題が多い

  1. 経理担当者の負担が集中しミスも増加
    月末と翌月末に請求書の処理や支払い業務が集中する。結果として、経理担当者は短期間に大量の作業をこなさなければならず、業務過多でミスや遅延が発生しやすくなっており、長時間労働の一因にもなっている。
  2. 資金繰りが硬直し経営判断のスピードが鈍化
    支払いが翌月末に固定されることで、資金の出入りが一定のサイクルに縛られる。これにより、急な支出や投資が必要になった際に資金を柔軟に回せず、経営判断のスピードが落ちるリスクがあると言われている。
  3. デジタル化推進の足かせに
    請求・支払い処理を「月末締めで一括」という慣習が根強いため、リアルタイムでの決済やキャッシュフロー管理の導入が進みにくい現状がある。これでは、最新のクラウド会計や電子決済の恩恵を受けにくくなり、業務の効率化が遅れてしまっている危険性がある。
  4. データドリブン経営と言いながら
    支払いタイミングが固定化されているため、購買や経費の精算が遅れ、データが最新状態でつかめず、社内の意思決定も後ろ倒しになりがち。スピード感が求められる現代ビジネスにおいては、大きなハンディキャップとなっている。

2.古いスキームを変革する気がないのはなぜか

DXの事例をよく見聞きするが、「月末締め・翌月末払い」を改革したというものを拝見したことがない。このスキームは、経理部門では常識となっているので、経理部門から「問題」として起案することはない。また、経理部門以外は、関心が低いから問題と認知することがない。
しかし、ピークを立てるスケジュールは、ピークに合わせた人員を必要とするから、効率的ではないと考えるのが普通だ。デジタルの時代に「まとめて処理したほうが効率的」とする明治時代の常識にとらわれているのもおかしい。

3.月次処理からリアルタイム処理へ

日本企業には、これ以外にも月次処理が多数残っているように思われる。これらをリアルタイム処理に変革したらいいと思うが、なぜやらないのだろう。残っていると思われる月次処理は以下の通り。

  1. 経費精算:社員が経費をまとめて月末に提出→承認→翌月払い
  2. 棚卸・在庫管理:月末や四半期末に在庫棚卸を一斉に実施し、会計帳簿と照合
  3. 決算業務:月次・四半期・年次単位の一括集計
  4. 請求書発行:月末までの取引をまとめて請求書に反映、翌月に発行
  5. 購買・発注処理:発注は毎週N曜日、請求処理は月末など

4.ぜひ変革を検討してはどうか

DXはXが大事だと考えているなら、経営にはデータが大事だと言うのなら、検討すべき大きなテーマだと思う。
しかし、どの部門の誰が検討できるのか、守旧派の反対に負けてしまわないか、大きな課題が横たわる。果たして、経理部門が自己否定となるプロジェクトを立ち上げることができるのだろうか。そう考えると、ビジネス・プロセスを変革することができる高度な能力を持つ専門チームが企業に欲しくなってくる。
やらない理由は山ほどあるとは思うけど、どこかが始めることを期待している。

他のDBIC活動

他のDBICコラム

他のDBICケーススタディ

一覧へ戻る

一覧へ戻る

一覧へ戻る

このお知らせをシェアする