前回のコラム「デジタル化の「中身」が会社の実力を露呈させている」では、デジタル化の成否は、システムそのものではなく、その「中身」すなわち業務の設計を担う専門部隊の有無にかかっている、という点を書いた。
その専門部隊の一つの理想形が、ファーストリテイリング社の「デジタル業務変革サービス部」だと感じたため、今回はそれを紹介したい。
もっとも、公開されている情報は多くない。そこで、ファーストリテイリング グループ執行役員 CIOである丹原崇宏氏のプレゼンテーション資料(2025年4月10日付、英語版・日本語版)をもとに考察していく。
資料のタイトルは、英語では
"Digital Business Transformation Fully Integrated with Frontline Operations"、
日本語では
「現場と一体となったデジタル業務変革」。
このタイトル自体が、同社のDXの本質を端的に表している。
この部門の最大の特徴は、「現場の業務変革」と「システム開発」の両方を担っている点にある。一般企業の情報システム部門と決定的に異なるのは、この部門が「現場の業務そのものを変える役割」を持っているという点だ。
スライドから、その特徴を抜粋する。
・・・・・
業務=システム
・・・・・
何がすごいかというと、この部門がすべての現場業務の標準化と変革を主導する役割と機能を持っている点だ。
一般的な企業では、
という分業構造になっている。
この仕組みは、「現場が最も業務を理解している」「現場の改革は現場の責任である」という前提に立っている。しかしその反面、既存の業務プロセスに縛られ、大きな変革案が生まれにくいという構造的な弱点を抱えている。
ユニクロは、1993年の時点で既に「業務=システム」という考え方を採用している。当時の情報システム部門は「業務改革部」と改称され、「システムという思想で現場の業務を変革する」ことを経営哲学として掲げてきている。
スライドには、1993年に柳井社長が命じた言葉が今も残されている。
・・・・・
業務=システム
・・・・・
この思想が、30年以上にわたって一貫して受け継がれていることに、同社のDXの本質があると感じる。
スライドでは、経営戦略を英語で
"Business management transformation"
つまり「マネジメントの変革」と表現している。つまり、経営戦略そのものが「ビジネス・マネジメントの変革」だという位置づけだ。
そして全体を貫くメッセージは、「デジタル=経営文化の変革」。
その変革は、次の3つの骨子として具体化されている。
経営戦略そのものを「変革」と定義している点に、強い衝撃を受ける。
「変革」は抽象的なスローガンではなく、3つの骨子によって明確に定義されており、それを実現するための現場変革がDXだという構図になっている。
「デジタル業務変革サービス部」は、現場を変革する際の設計思想を、この3つの骨子の実現に置く。
例えば、
といった具合に、顧客中心という戦略が、現場設計の前提条件(設計思想)になっている。
顧客中心がスローガンではなく、業務設計の出発点になっているところが、このDXの本質的な凄さだ。
最後のスライドでは、生成AIの活用方針について、次のように述べられている。
・・・・・
グローバルでのさらなる事業拡大を支えるため、デジタル業務変革サービス部は、今後さらに世界各国の現場に入り込み、現場から「最も良いやり方」を学びながら業務変革を推進していく。
さらに外部パートナーとも協業し、新たな技術の開発・導入を進めることで、業務変革をグローバルに広げ、すべての社員が徹底的に実行し、効果を創出することを目指す。
その一つとして、生成AIを前提とした業務にすべてつくり変えていく。部分的な導入ではなく、AIを前提とした「グローバルワン・全員経営」の業務システムへと進化させていく。
・・・・・
「生成AIを前提とした業務にすべてつくり変えていきます」と明確に宣言している。「業務=システム」という経営思想で、現場の業務をすべて可視化しているからこそ、AIで「つくりかえる」ことができるのだろうと感動する。
今回の資料を通じて、次の二点をあらためて強く感じた。
① 明確に言語化された戦略があって初めて、業務改革の「設計思想」を持つことができるということ
② 業務改革には、抽象化・標準化・全体最適の能力を持つ専門部隊が不可欠だということ
ファーストリテイリング社の「デジタル業務変革サービス部」は、DXとは「ツール導入」でも「IT化」でもなく、経営戦略を起点に、現場の業務そのものを設計し直す営みであることを、これ以上なく明確に示している。
多くの企業でDXが「変革」にならない理由は、技術ではなく、この設計思想である「価値創造戦略」と、変革の専門部隊「CoE」が欠けていることにあるのではないだろうか。
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