【横塚裕志コラム】人生を賭けてもいいと思える挑戦に出会えるか

1.共鳴の瞬間

先日、DBICの仲間から、興味深い動画を紹介いただいた。冬季オリンピックで、りくりゅうペアが金メダルをとったフリーの演技中の映像だ。
動画を見ると、まだ演技は終わっていない。得点も出ていない。ところがコーチは隣のコーチと抱き合い、大きくガッツポーズをしていた。選手たちもまだリンクの上にいる。私は思わず動画を巻き戻して見直した。「なぜ今なのだろう」。

最初は不思議に思った。まだ得点も出ていない。金メダルが確定したわけでもない。なぜ、あんなに早く喜んだのだろうか。
少し考えてみると、あれは「勝った」という喜びではなかったように思えた。
おそらく、「やり切った」という喜びだったのではないだろうか。
7年間、積み重ねてきた努力が、その数分間にすべて表現された。その瞬間を見て、コーチの感情があふれ出したのだと思う。

りくりゅうの選手とコーチやトレーナーの皆さんが目指していたものは、金メダルだけではなかったのだろう。チーム全員で理想とするスケート演技があり、それが実現できた瞬間だったのだろう。また、日本スケート界の改革ということもあっただろうし、二人の実力が100%出せたという喜びもあっただろうし、メダルの結果以上に目指したものがチームにあったのだろう。私には想像すらできない。

そこには、単なる信頼関係を超えた何かがあった。目標を共有している、というだけでもない。もっと、熱いものがあったのだろう。チーム全員が、「人生を賭けた共鳴」の渦の中にいたのではないかと感じた。

2.未来への賭け

お互いが同じ未来を信じ、その実現のために人生の一部を投じてきたチームを見て、ふと、自分の仕事人生の中で、そうした経験を二度味わったことを思い出した。りくりゅうと比べたらレベルは低いけど、似た感覚のように思う。

一つ目は、第2次オンライン計画だった。
当時は集中処理が効率的という常識があった。しかし私たちは、最前線で処理を完結させる未来を描いていた。本社の多くの部門が反対して、会社を二分する大議論になったが、私はリーダーの描く未来に共鳴し、その実現のために全力を尽くした。
プロジェクトは難航したが、「やり切りたい」と必死だった。

二つ目は、保険商品の大規模な断捨離だ。
長年にわたり、顧客からの要望に応じて商品機能が追加され続け、複雑になっていた。結果、お客様への説明も難しくなり、システムは複雑化し、使いにくくなっていた。
そこで私たちは、5年と400億をかけて、保険約款の断捨離と共に、使いやすい基幹系システムを全面的に新しく構築した。
プロジェクトは遅延し、予算超過となり、「失敗」と内部監査部から批判された。
しかし、最前線の方々から「この日を30年待っていた」と喜ばれ、チームでは「会社の未来のためにやり切った」という喜びの渦であふれかえっていた。

3.挑戦の記憶

振り返ると興味深いことがある。
二つとも、私はリーダーではなかった。
構想を描いた人は別にいた。私は、その人が見ている未来に共鳴した側だった。
しかし、このプロジェクトは今でも鮮烈に覚えている。
なぜだろうか。それは、単に仕事をしていたのではなく、自分自身もその挑戦の当事者だったからだと思う。成功したから覚えているのではない。本気だったから覚えているのだと思う。

最近、多くの企業でエンゲージメント向上が語られている。働きがいも語られている。しかし、人が本当に生き生きと働く瞬間は、もっとシンプルなのかもしれない。
それは、「この未来を実現したい」と心から思えること。
そして、「この人が見ている未来を、自分も実現したい」と思えるリーダーや仲間と出会うこと。人生を賭けるというと大げさに聞こえるかもしれない。しかし、仕事人生を振り返ったとき、本当に忘れられない経験とは、そういう挑戦ではないだろうか。

4.心震える未来

私が気になるのは、こうした経験を語る人が、最近少なくなったように感じることだ。今までの常識を打破したというテーマも、多くの反対を振り切って信念を貫いたリーダーの話も聞かない。

人生を賭けた共鳴が生まれるのは、自分が信じる未来を選び取ったときだ。だから私は、若い人から「どんな仕事人生を歩めばいいですか」と聞かれたら、こう答えたい。
給料や肩書きも大切だろう。評価や昇進も無視はできない。
しかし、それ以上に大切なのは、自分が心から「実現したい」と思える未来に出会えるかどうかだ。そして、その未来に人生を賭けるほど本気な人たちと出会えるかどうかだ。

人は、そういう経験をしたとき、自分でも驚くほど真剣になれる。その記憶は何十年経っても消えない。私は、人生の中で何度かそうした経験に出会えたことを幸せだったと思っている。
だから、多くの人にも一度でいい。そんな挑戦を味わってほしい。

そして何よりも、「人生を賭ける価値がある未来」に心を動かされる感受性だけは失わないでほしい。
AIがどれほど進化しても、人が本当に動くのは、正解を知ったときではない。
「この未来を実現したい」と心が震えたときなのだ。

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