【レポート】横塚裕志が聞きたいシリーズ 第6回 「ブロックチェーンのビジネスバリューが理解できる!」

第6回では、日本アイ・ビー・エム株式会社・グローバルテクノロジーサービス事業本部の山下克司様をお招きし、いま話題の「ブロックチェーン」についてお話いただきました。 本レポートではセッションの模様を再構成してお届けします。

イベント概要:横塚裕志が聞きたいシリーズ 第6回 「ブロックチェーンのビジネスバリューが理解できる!」 スピーカー:日本アイ・ビー・エム株式会社 グローバルテクノロジーサービス事業本部 山下克司 様 開催日時:2017年12月4日(月) 16:00~17:30 会場:DBIC

「ブロックチェーン=ビットコイン」という誤解

第6回目となる「横塚裕志が聞きたいシリーズ」、過去最高となる60名以上の方にご参加いただき、会場は熱気にあふれかえりました。ブロックチェーンに対する関心の高さがうかがえます。 日本アイ・ビー・エム株式会社 グローバルテクノロジーサービス事業本部 山下克司 様 ブロックチェーンと聞くと「ビットコインのことでしょ?」「仮想通貨や金融の技術だよね?」と、自社のビジネスにはあまり関係がないという声を聞くことが多くあります。また、ビットコインの知識があるからこそ「ブロックチェーンの分散モデルをクラウドやメインフレームに集約しても意味がないのではないか?」という誤った印象を持たれる場合があると山下様は語ります。まずはその誤解を解くところからセッションが始まります。 ブロックチェーンの基礎技術は、実は昔からある古い技術ばかりです。様々な技術を組み合わせで、新たな仕組みをつくりあげているのですが、話題性のあるビットコインのニュースばかりが取り上げられるため、突然現れた革新技術のように思われていることが、正しい理解を妨げる原因になっています。

分散管理と中央集権

DBIC代表 横塚裕志 ブロックチェーンは情報の分散管理を実現するための技術です。言い換えればデータ保存方法のひとつで、「誰が誰にどういった情報を渡した」という取引情報(トランザクション情報)を数珠つなぎにし、1本の取引台帳(=チェーン)をつくって関係者全員が持つ、という技術です。中央集権型にだれかひとりが台帳を持つのではなく、参加者全員が台帳を持って、自律的に管理することが特徴です。 ブロックチェーンを利用するメリットとしては以下の点が挙げられます:

  1. 複数の関係者をまたいだ情報の共有に適している
  2. 全員が同じデータを持っているためデータの改ざんが困難
  3. システム障害発生時にすぐに復旧できる

上記の理由からブロックチェーンを活用することにより関係者全員がフラットに情報を共有し、常にそのステート(状態)の遷移を把握することができます。この特性を「通貨」という形に実装したシステムのひとつがビットコインです。 あくまでブロックチェーンは情報を分散管理する基礎技術であり、それを仮想通貨として実装したシステムがビットコインです。ただ、ブロックチェーン技術はビットコインと同時に基礎技術として登場してきた経緯があるため、両者が混同されていることが誤解を招くひとつの原因になっています。 現在では「通貨」以外の用途に特化したブロックチェーンプロジェクトが注目されており、不動産登記や、企業内のサプライチェーン管理など、様々な分野での応用研究が進められています。

伝票文化からデジタルネイティブへの転換

ブロックチェーンがビジネスの現場にもたらす変化のひとつとして、「伝票文化からの脱却」が挙げられます。 ビットコインが実現している例のひとつとして銀行の海外送金が考えられます。一般的な海外送金では、最初に依頼人が振込依頼書を起票し、その情報が、振込元銀行→中継銀行→振込先銀行と伝達され、最終的に受取人の口座残高に反映されます。各銀行に台帳があるため、少なくとも3回の台帳更新、2営業日以上の時間、数千円の手数料が必要になります。 ビットコインでは依頼人側と受取人側が同じ台帳を持つことになります。例えば依頼人が「10ビットコインの仮想通貨を受取人に送信」という取引情報をブロックチェーンに書き込むことにより、その情報がネットワーク全体の台帳に書き込まれ、受取人が10ビットコインの仮想通貨を受け取ります。取引情報の書き込みにかかる時間と若干の手数料が必要ですが、従来の海外送金より早く安く送金することができます。そして紙の伝票を扱う銀行も必要なくなり、中間プロセスをすべて省くことができます。 ブロックチェーンを前提としてビジネスを考えることが、現在の伝票ベースの業務をシステム化したビジネスプロセスを根本から覆し、最初からデジタルなビジネスを生み出す可能性を秘めています。

ブロックチェーンが加速するビジネス・エコシステム

そして注目すべき特性のもうひとつが、「関係者間でのリアルタイム情報共有」です。 例えば現在は生命保険に加入する場合、医師による医療審査などの様々な手続きをした上で、保険会社の契約レコードに登録してもらうことが必要になります。これをブロックチェーンで実装した場合、保険会社が契約レコードに登録するのではなく、関係者全員が共有する台帳に登録されます。これまで保険会社を通じて行なっていた処理はブロックチェーンを経由してリアルタイムにその情報が医師に伝わり、医師が加入者に診察案内を出し、医師が診断結果をチェーンに書き込むといったデジタルなプロセスが実現できるでしょう。もしかすると、保険会社の営業も業務管理も必要なくなり、生命保険会社のビジネスはほんの数人の保険リスク管理の要員だけでよくなるかもしれません。 このようなデジタルネイティブのビジネスプロセスになった場合、その企業にとっての真のコアコンピタンスとは何かを改めて考える必要に迫られます。生命保険会社にとっては、診断結果の妥当性や保険料が適正であるかを検証できることがコアコンピタンスとなるでしょう。 このフラットな情報共有は、複数の企業が共有するビジネス・エコシステムに適しています。情報伝達やチェックなどの無駄な作業を取り除くことにより、それぞれの参加者が自らのビジネスに集中することができ、共創価値を最大化することができます。 そして従来のような国家や企業に縛られない「非中央集権型自律組織」(DAO: De-centralized Autonomous Organization)ができるのではないか、といった未来を予測する議論が活発になっています。

テレパシーで伝えるのがブロックチェーン?

では、記事冒頭の誤解の例として挙げた「ブロックチェーンの分散モデルをクラウドやメインフレームに集約しても意味がないのではないか?」といった理解はどこがまちがっているのでしょうか? ブロックチェーンは「データが分散していること」ではなく、「台帳が共有されていること」が重要です。参加者全員が平等に情報を共有し、常にその状態を把握することができる。そこにブロックチェーンの真髄があります。海外送金や生命保険の例でも、台帳を共有することにより新たなビジネスバリューが生まれています。 山下様はブロックチェーンによる受発注や契約というようなビジネスのステート(状態)の共有を「伝票という紙の媒体で伝え合うのではなく、テレパシーのように瞬時に伝えるようなもの」とおっしゃります。「今のビジネスにどう影響するか」ではなく、新たに生まれたデジタルのアナロジーとしてどう受け止められるかを考える必要があります。

ビットコインの基礎知識と限界

ここまでのセッションでブロックチェーンの基本を理解した上で、仮想通貨「ビットコイン」を構成する技術の説明が始まりました。 ビットコインは公開鍵暗号によるデジタル署名、ハッシュキャッシュ、プルーフオブワーク、ピアツーピアネットワークといった様々な基礎技術の組み合わせで成り立っています。 取引情報の追加(マイニング)をマイナーと呼ばれる参加者に任せ、分散自律型のシステムを維持する仕組みが確立されています。一方で、取引確定までに時間がかかる、時間当たりの処理能力が低い、仕組みの維持にコストがかかる(電力消費量が多い)、といった問題をはらんでいます。 このような問題点を解決するために、ビットコイン自体の改善(フォーク)や、ビットコインに代わる仮想通貨(オルトコイン)の発行が進められています。

注目される「スマートコントラクト」

ブロックチェーンを通貨以外に活用する方法として注目されている技術がスマートコントラクトです。スマートコントラクトは、ブロックチェーンにプログラムコード(実際はリナックスコンテナ技術)を格納する技術のことで、取引発生と同時に様々なアクションを起こすことができます。 この技術を応用すれば、消費者が決済した瞬間に様々な契約処理を完結させることが可能になり、イレギュラーケース以外の事務作業をすべて自動化できるのではないか、という観点で注目されています。 このような仮想通貨以外へのブロックチェーンの活用は「ブロックチェーン3.0」と呼ばれており、ビットコインに次ぐ時価総額をもつ「Ethereum」が代表的なプロジェクトです。 またIBMはコンソーシアム型スマートコントラクトブロックチェーンの代表格であるHyperledgerコンソーシアムに参画し、ブロックチェーンをビジネスの様々な場面で使う実証実験に取り組んでいます。Hyperledgerは分散トランザクションの合意メカニズムを活用することでマイニングを不要としながらも、非中央集権的な会員制ネットワークを形成し、決済遅延やセキュリティ保護などの問題を解消したビジネスに使いやすいブロックチェーンを提供しています。

ブロックチェーンのROIを計ることはできない

山下様から「ブロックチェーンは基盤技術。そのROIを計ることはできない」とのお話がありました。例えば社内に電子メールを導入した時、その費用対効果を正確に見積もることができたでしょうか。それは従来の通信コストの削減ではなく、企業内や企業間の業務プロセスやコミュニケーションを変革し、社員の働き方までも変えたのではないでしょうか。ブロックチェーンも既存プロセスの改善という枠組みを超えたチャレンジになるでしょう。 山下様の言葉を借りればブロックチェーンによって「テレパシーで話す宇宙人のような人たちが斜め上からやってきて、ビジネスを根こそぎ持っていかれる」時代がすでに始まっています。紙文化を破壊しデジタルネイティブな世界を作ること。企業の真のコアコンピタンスを明らかにし、価値の共創を加速すること。そのビジネスバリューに着目し、自社のビジネス変革の起爆剤として活用することが必要になっています。

ブロックチェーンを正しく理解し、ビジネスに活用する

参加者による質問が飛び交ったのも特徴的なセッションでした。「ブロックチェーンの参加者はどのように決めるのか?」「取引(トランザクション)の競合は発生しないのか?」「ブロックチェーンが長くなると処理負荷が高くなるのではないか?」「最初のチェーンはどのように登録するのか?」「インダストリー4.0とはどう関係しているのか?」「どうすればブロックチェーンベースのビジネスをデザインできる人間を育てることができるのか?」終了後も有志メンバーが山下様の元に集まり、積極的なディスカッションが続きました。 ブロックチェーンはまだ未成熟な技術ですが、その動向とビジネスに与える影響を無視することはできません。今回のセッションはブロックチェーンに対する参加者の疑問を解き明かすきっかけになったのではないでしょうか。

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