スピーカーは産業技術総合研究所(産総研)主任研究員の保原浩明(ほばら ひろあき)様。ご専門はバイオメカニクス(生体力学)で、モーションキャプチャーによる映像解析をと通して義足アスリートの動きや身体を分析しています。 保原浩明様 パラリンピック開始当初には男子100メートル走におけるオリンピックとパラリンピックの優勝タイム差は4秒以上ありました。それが、2016年のリオデジャネイロオリンピックではジャスト1秒にまで縮まっています。 きっかけは炭素繊維複合材料といった素材、そしてアスリート向けに「かかと」を排除した形状といった義足の進化。このまま両者の差が縮まれば、グラフ上では2069年にはパラリンピックの記録がオリンピックを抜くことになる、と保原様は解説します。 2016年のオリンピックとパラリンピックのタイム差を示す「その一秒を削り出せ!」を合言葉に、産総研は義足アスリートの研究を続けています。トップ義足アスリートのモーションキャプチャー解析でわかったことは、「義足ではない方の足が、とんでもない速さで走っている」ことでした。 横塚裕志 保原様は何度も「義足の選手はオリンピックに出場できるでしょうか?」と会場に問いかけます。参加者の反応はほぼ半分に分かれます。これは公平なのか? テクノロジドーピングなのか? そもそも「健常者」の定義は? 保原様は「すべての意見が正しい」と説きます。重要なのは多様性であり、どんな人も生きやすい社会です。 それでは、なぜ保原様はほんの一握りの「義足アスリート」にこれほど注力するのでしょう? その答えは「個人価値の最大化」と「社会伝播」です。 多様性が尊重される社会の実現のためには、テニスの錦織圭選手や将棋の藤井聡太さんのような「強くなりたい」という個人の想いが、結果として社会を大きく変える近道になる、というのです。そのために、義足スポーツの裾野を広げ、活動を支援することの重要さを保原様は訴えました。 刺激的なセッションを受け、質疑応答の時間には積極的なディスカッションが繰り広げられます。横塚裕志は「DBICメンバー企業のような日本の大企業は、日本国内で6万人程度と言われる義足マーケットは小さすぎてビジネスにならないと考えるのではないか?」と質問します。 保原様は「世界で見れば600万人の義足市場があります。日本で何かをやって海外に展開しようとするのではなく、最初から世界を狙ったモデルを考えるべきではないでしょうか」と答えます。義足で培ったノウハウがあれば、パラスポーツ全体、そして幼児や子供といった巨大なマーケットが見えてくるはずです。 産総研の義足研究のスポンサーになっている三菱ケミカルホールディングスも、義足単体でビジネスを狙っているのではなく、高齢者の歩行サポート、靴、床材、そして障がい者のモビリティという未来を見据えています。 保原様が圧倒的なアスリートの分析や育成に取り組まれているのと同じだけ、保原様ご自身の「熱い想い」が世界を変えようとしていることが伝わるセッションになりました。
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