【横塚裕志コラム】韓国スマートシティ戦略レポート

大きな動力と、具体的なテーマ

韓国政府は、スマートシティ戦略を国家が第4次産業革命を推進するための「動力」として定義しています。 政府が単に「デジタルを推進しなさい」と呼びかけてもピントがぼけて進まないので、最初に「都市の社会課題解決」を具体的なテーマとして決め、多くの産業に参加を呼びかけていました。 更に、スマートシティ化の実証マーケットとしてセジョンやソンドといった未開拓な原野をゼロから都市化するプロジェクトと、プサンでの旧都市をデジタル化するプロジェクトの両方を政府が立ち上げ、大規模な挑戦や実験を可能にしていました。 セジョン(世宗)

実践することで課題が見えてくる

韓国のスマートシティ戦略は、すべてが「小さくつくって学び、さらに拡大していく」という考え方で進めています。 最初から全体の構想に囚われすぎず、交通、水、エネルギー、ごみ、住宅、などの各分野でそれぞれ進めていきながら、ある程度まで来ると、スマートシティ全体のプラットフォームとして整理していく、というイメージです。確かに、ある程度やってみなくては全体デザインもできないし、プラットフォームも設計できない、というのは理にかなっています。 全体を構想しないうちに個別に進めていくというスタイルは、私の世代の感覚では違和感を感じてしまいます。しかし、全体を構想していると何も進まないというのが、複雑化した今の時代の現実なのだと考えを改めました。

リセットする勇気

ソウルでは、10以上あったバス会社の既存路線を全部リセットし、データに基づいた効率的な路線図をゼロから引き直すという作業を行っていました。韓国版新幹線ではデジタル化に伴って改札口を廃止するなど、とにかくビジネスプロセスの変革を愚直に実施しています。 そこまでやって初めて本来の意味のデジタル化の効果が出るわけで、日本も命がけでそういう変革を実践することが必要だと痛感しました。

徹底したデータ主義

プロジェクトを進めるにあたって、徹底して、データを根拠に構想していることに驚きました。とにかく「事実に基づいて効果があることをやる」という態度が貫かれています。例えば道路について考える際にも、交通事故の頻度、渋滞の状況など客観的なデータに根拠を求めます。 その時点で必要なデータがなければ、そこからでもデータ収集を開始しします。その結果、個人の感覚だけで新しい提案を却下することはできないし、市民からの要望にもリーズナブルに対応していました。 また、なんでも可視化することが良いことだという考え方もすごい。ソウル市長が見ているのと同じデータを、ウェブで一般公開しているというスタンスには驚きました。

正しく機能する産学連携

政府の戦略方針を受けて、大学での技術研究が行われています。シンガポールでも同様ですが、政府が具体的なテーマを大学に委託し、大学がそれに応えることで、人材育成における政府の問題意識と大学が連動しています。 例えば、政府の「セキュリティ人材の育成が急がれる」という戦略に沿って多くの大学に対応したカリキュラムができていくというのが、典型的な事例でしょう。 そのベースとなる政府の戦略を立案しているのは公務員ではありません。サムソンやLGなどの民間人が政府に入ったり、学会の人材を登用して、有能なブレーンを集めて戦略を練っているのです。

最大の違いは人間、そしてカルチャー

全体を通じて「必死に取り組んでいる」「考えたらすぐ実行している」「楽しそうにやっている」「1人ひとりの個の力が強い」という印象を持ちました。 日本的な「それ以上は機密で言えない」とか「それは私の担当ではないのでわからない」といった反応をする人がひとりもいなかったのには驚きました。 日本のデジタルトランスフォーメーションがどうして進まないのか、そのヒントをたくさん見つけることができた韓国視察となりました。DBICの活動を通して、日本企業におけるカルチャー、そして人間を変えていくための活動をますます加速させていきます。

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