日本で「データ」や「AI」を使ったビジネスが進みにくい原因は、それを活用したがっているビジネス側にあることが多いのではないかと感じています。 こんなことを言うと、ビジネス側から「エンジニア側が活用方法を提案してくれないからだ」と反論を受けてしまうかもしれませんが、本質的なボトルネックは、ビジネス側のこういった思考停止状態にあるのではないでしょうか。つまり、活用する側にこそスキルが欠如しているのです。 「何でもいいからデータを活用してみてくれ、あとはこちらで選択する」というビジネス側からのアプローチは何も生み出しません。これを続ける限り、どんな高額報酬のデータサイエンティストを採用しても何も始まらないのです。
ビジネスのどの部分で顧客価値を上げたいのか。あるいは、どのプロセスに焦点を当ててデータを活用し、大幅なコスト削減を実現するのか。これらのことを考えるのはビジネス側の役割であり、実践のためには具体的なスキルとトレーニングが必要です。 自分がビジネス側に所属している、というだけでビジネスの構造が理解できていると思い込んでしまうのは幻想だと私は考えています。そしてこれは、今に始まった話ではなく、1990年代に「IT活用」と言われ始めた頃から同じ状況が続いており、日本では未だにITすらも本当の意味では活用されていないのが実態ではないでしょうか。 ただし、日本における行政や研究機関、そしてベンダーのプレゼンテーションを見ていると、「データの活用」からスタートするケースがほとんどであることも事実です。これでは、ビジネス側が思考停止してしまうのも無理はありません。
DBICが提携しているスイスのビジネススクールIMDのプログラムにおいて、「データ活用とAI」を専門とするIMD教授を東京にお招きし、講義をしていただく機会がありました。その際、講義が「データ活用」から始まったので、あわてて私が質問をしました。 Amit Joshi IMD教授 「いきなり『データ活用』からスタートすると、ビジネステーマが決まっていないためにプロジェクトが進まなくなってしまうケースが日本では多いのです。ビジネステーマの探求から講義を始めるべきではないでしょうか?」 それに対して教授は「ビジネステーマからスタートするのは当たり前のことです。私は『自分のビジネスでチャレンジしたいテーマがある』という参加者に向けて『どのようにデータを分析することで、そのテーマを解決していくか』を講義しています。ビジネステーマを持たずにこの講義を聴く人を対象にしていません」と答えました。 また、シリコンバレーのグーグル本社でAIのチームリーダーを務めた後に独立し、日本で日本企業のサポートを始めている方から、こんな悩みを聞きました。「日本の企業に呼ばれていくと、『何とかデータを活用したいのでサポートしてほしい』と頼まれるケースが多いです。しかし、それではサポートのしようがありません。具体的なビジネス課題まで掘り下げて成果を求めていないからです」
イノベーション、そして新規ビジネスを起こすには、最初に「プロブレムステートメント(課題の定義)」を描くことが世界標準かつ必須条件である、とDBICは繰り返し発信しています。 同様に、データ活用やAI活用のためにも「プロブレムステートメント」が必須であり、これはビジネス側が考えるべき重要な仕事です。日本企業が最初に注力すべきは、適切な「プロブレムステートメント」を描くためのビジネス側のトレーニングであり、それが十分でない限り、いくら優秀なデータサイエンティストを採用してもデータやAIを有効活用することはできません。 横塚裕志(左)と堅田洋資様(右) DBICでは、このビジネス側のトレーニングに特化した新プログラム「Data Business Lab」を2019年10月から開催します。講師には「横塚裕志が聞きたいシリーズ第13回:AIでビジネスインパクトを出すための方法論 ~ビジネスとデータの橋渡し役に求められる思考法~」にご登壇いただいた株式会社データミックスの堅田洋資様をお迎えし、3ヶ月(全6回)のプログラムとなります。 ビジネステーマを探求する能力を持った社員育成のために、DBICメンバー企業からのご参加をお待ちしております。
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