【横塚裕志コラム】イノベーションのテーマを設定するという難題(1)

立ちはだかる「テーマ設定」という壁

大企業によく見られるのが、例えば「ヘルスケア分野でイノベーションを起こす」とか、「新規ビジネスを立ち上げる」といった大枠の方針はすぐに決まっても、そこから先の具体的なテーマにまで振り下げることができないというケースです。 アイデアソンやハッカソンを何度やってみても、決め手となるようなテーマが見つからない。その分野のスタートアップをピックアップしてみたものの、どう組んだら相乗効果が発揮できるのかわからない。コンサルティング会社に委託しても、継続性が見込めない。

DBICが提唱する2ステップ

この「イノベーションのテーマ設定」という難題に取り組むために、DBICが過去3年間の活動を通して国内外から学び、独自にカスタマイズした2段階のステップをご紹介します。 ステップ1:テーマの探求 イノベーションのテーマを探求する際に「社会課題」「自分ごと」「会社のビジョンとの整合」という3つの円を意識してください。これらすべてが重なる領域に置けるものがあなたの使命であり、イノベーションのテーマ候補になります。 ステップ2:プロブレムステートメントを描く テーマ候補に対して解決策の実現可能性、一定期間での実行可能性、マーケットサイズ、社会的インパクトなどを検討し、「誰の」「どんな困りごと」を、「どのように解決するか」について具体的かつ簡潔に定義します。これを世界標準では「プロブレムステートメント」と呼び、イノベーションのテーマとして設定します。 2018年度「DBICシンガポールイノベーションプロジェクト」の参加メンバーによるプロブレムステートメント現地発表会の模様

社会課題を肌で感じるために

今回は連載開始にあたり、「ステップ1:テーマの探求」のうち最初の円にである「社会課題」から解説します。 注目していただきたいのは、「企業課題」ではなく「社会課題」であるという点です。会社員が慣れ親しんだ従来型の「企業課題」であれば、オフィスの中で検討することができましたが、「社会課題」はそうはいきません。会社という安定した枠組みから出て、複雑で多様性に富んだ実社会の中に飛び込まないと始まらないのです。 2018年8月、「DBICイノベーションプロジェクト:自転車による歩行者殺傷事故の撲滅を実現する」の参加メンバーが開催した自転車走行体型イベントの模様 例えば、「発達障害」を対象に掘り下げてテーマ化していこうとした場合、その現場に足を運んで関係している方々と対話をして理解を深めたり、専門家にお会いして学ばせていただいたり、といったことを繰り返します。そうやって対象にどっぷりと浸かることで、初めてその課題を自分の肌感覚で感じることができるようになってくるでしょう。

自ら汗をかき、社会課題の本質に迫る

他の誰かが進めているプロジェクトに協力したり、資金面で支援したりということにも重要な意義はありますが、それだけを続けていても、自らのイノベーションのテーマ設定にはつながりません。 大企業で働き続けていると、担当外のことや得意でないことは外部の会社に委託する癖がつき、自分は納品されたものを評価するだけなのが当たり前になってしまいがちです。しかし、自ら現場に入り汗をかかなければ社会課題の本質に届くことはできず、その先にある新しいビジネスを発想することもできません。 イノベーションのテーマ設定を成功させるための「ステップ1:テーマの探求」で意識すべき3つの円に共通して言えることですが、社会課題に向き合うためには、大企業の会社員としての今までの生活や思考とは180度異なるアプローチが必要になると私は考えています。 次回は「自分ごと」について解説します。

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