【レポート】電子情報医学会 設立説明会

2014年に設立された医療ベンチャーであるシェアメディカルは、聴診器デジタル化ユニット「ハミングバード」や、医療用チャットサービス「メディライン」、医療関係者向け招待制コミュニティ「クラウド医局」などを開発、運用しています。 当日は同社CEOの峯 啓真様、医学顧問の道海秀則医師、CSOの留目真伸様から、ハミングバード誕生の経緯、聴診データの収集分析を目的とした研究会や医学会の立ち上げ、そしてDBICメンバー企業の関わり方について講演していただきました。本レポートでは講演内容を再構成してお伝えします。

聴診の課題をハミングバードが解決する

聴診器デジタル化ユニット「ハミングバード」 峯:古くから、患者の胸に耳を当てて音を聞く聴診は、医学において重要な診察でした。しかし、1816年にフランスで初めて筒型聴診器が発明され、1867年にドイツで現代の聴診器の原型が開発されて以来、聴診器はほとんど進化をしていません。 例えば学校検診で、1日に数百人の生徒を聴診すると、途中から医師の耳はイヤピースで痛くなってしまうので、片耳ずつ付けたり外したりしながら聴診をするのが当たり前になっています。医師がこんな苦労をしていることを一般人は知らないですし、当の医師も「これは職業病だから」と諦めているのが実態です。 この聴診器という領域で、200年ぶりにリープフロッグ型(途中段階を飛び越えていきなり最先端に進む)進化を起こすのが「ハミングバード」です。これまで使われていたチェストピース(胸に当てるパーツ)はそのままで、そこから後ろの、従来のゴム管にあたる部分を丸ごとデジタルユニットに置き換えることができる製品です。 デジタル化することによって、心音や肺音といった特定の音を強調したり、ノイズリダクションによって騒がしい環境でも聞きやすかったり、スマートフォンと接続して録音することもできるようになります。医師の目が悪くなったら眼鏡をかけて矯正するように、ハミングバードを使うことで医師寿命の延長にもつながります。特許も取得済みです。

データ化による遠隔医療、知見の共有、グローバル展開

峯 啓真様(シェアメディカルCEO) 峯:また、聴診器を胸に当てること自体は医療行為ではなく、音を聞いて診断するのが医療行為です。そのため、患者本人が自分でハミングバードを胸に当てて音を拾い、その音声データを離れた場所にいる医師が聞いて診察することも可能になります。長野で訪問看護師さんに試用していただく機会があったのですが、これまで聴診しても自分では判断できなかったのが、医師にデータを送って診察してもらえる、と喜んでいただけました。 呼吸器科の医師とお話してみてわかったのですが、そもそも聴診は職人芸のようなもので、医師1人ひとりが我流で身につけていくものでした。同じ患者を複数の医師で聴診したり、ある医師の聴診に他の医師の指導が入ることは基本的なく、極めて属人的な行為だったのです。 この聴診がデータ化され、共有できたらどうなるでしょう。これまで何年もかかった聴診スキルを、若いドクターが短時間で身に付けられるようになるかもしれません。画像と同じように電子カルテに添付して、AIを使った自動判定ができるかもしれません。心音や肺音に人種差はありませんから、日本で集めたデータを元にグローバル展開も可能です。 聴診器市場は年々数パーセント成長しているとは言え、機器販売だけで見るとそれほど大規模なマーケットにはならないでしょう。ですが、聴診データを集めて分析することによる知見は、指数関数的に成長するビジネスにつながっていくのではないかと考えています。

電子情報医学会・聴診データ研究会の設立の目的

道海秀則様(シェアメディカル医学顧問、医学博士、日本小児科学会認定専門医、山内病院附属藤沢スマートタウンクリニック小児科部長) 道海:峯さんとハミングバードを開発するきっかけは「学校検診の聴診で耳が痛くなる」という小児科医としての私の実体験でした。その初期段階から、ヘッドフォンのような形状で聞きたい、デジタル化して保存できたらいい、遠隔医療に応用できる、といった構想は概ね出揃っていました。 機器としてのハミングバードの発売が決まりましたので、次のステップとして聴診データを集積する「聴診データ研究会」を設立し、同時にもっと大きな枠組みとして電子情報全般を扱う「電子情報医学会」を立ち上げることにしました。 まず、聴診データ研究会は、ハミングバードによって集められた聴診データをどのように活用、運用するかを研究することを目的とした組織です。データ集積による教師データ化、ディープラーニング、AIへの応用などが挙げられます。また、医療の現場では聴診レベルが低下してきており、これは学習機会がないことに起因すると考えられます。これをデータ化、共有することで、聴診データの学習が広がり、聴診による所見の重要性が見直されることも期待できます。 よくある事例として、訪問看護師が聴診した際に「肺に雑音があります」という報告が上がっても、それだけでは医師は何の診断もできず、翌日になって高熱が出て初めて「あれは肺炎の雑音だった」とわかることがあります。もし、最初に聴診データを医師が聞くことができたら、早期に飲み薬の抗生剤を出すことで対応できたかもしれません。それが1日や半日遅れただけで、点滴や入院が必要になってしまい、患者の負担も増えて、医療費も増大します。 聴診データ研究会は、「電子医学情報学会」の中の分科会として発足し、最初に運用が始まります。学会では聴診以外にも、身体の部位や臓器、専門ごとの縦割りテーマや、複数を横断するテーマを扱います。例えば聴診データ研究会と、循環器科や呼吸器科とのコラボレーションには可能性があります。他にも人工透析の患者さんの腕にはシャントと呼ばれる管が埋設されるのですが、ここの詰まりを毎回看護師が聴診器でチェックしています。こういった分野でも聴診データ研究会との連携が期待できるでしょう。 先日、ルフトハンザ航空がすべての長距離路線にモバイル心電図計を搭載したと発表がありました。学会としてはこういった民間企業ともぜひコラボレーションをして行きたいと考えています。DBICメンバー企業の皆さんもぜひ電子情報医学会への協賛をご検討ください。

共創スタジオモデルによるエコシステムの形成

留目真伸様(シェアメディカルCSO、元レノボ・ジャパン/NECパーソナルコンピュータ代表取締役、元資生堂CSO) 留目:日本でも医療のプラットフォーム型事業をやりたいという企業はたくさんあります。診断データをセキュアな環境でAIを使って解析したり、電子カルテに紐付けたり、という分野ですね。 みなさん口を揃えて「データさえ集まれば、ビジネス化できるのに」とおっしゃるのですが、医療現場で日々使われているデータで、集積されていたり解析可能になっているものがほとんど存在しないのです。プラットフォームばかりあって、アプリケーションが存在しない状態に近いかもしれません。 その中で、ハミングバードは「キラーアプリケーション」になり得るのではないかと考えています。これまで視覚化されてこなかった問診データを集積し、分析することで、その後に続く診療の精度が上がり、医療費削減のドライバーになる可能性を秘めている製品です。 しかも、ハミングバードは医師の現場の切実なニーズから生まれたことも重要です。よくある医療IoT機器は、メーカー側が「これが便利に違いない」と想像してお仕着せしがちなので、なかなか現場で使われません。ところがハミングバードは「耳が痛い」「高齢で聞こえづらくなった」という医師のリアルなニーズから生まれており、「データの収集」はその結果として可能になっているところがポイントです。 なお、電子情報医学会は、私がCEOを務める株式会社サンドレッドの新産業共創スタジオという仕組みを使う予定です。このスタジオは、医療に限らず新しい産業の将来像、ビジネスモデル、エコシステムを仮説ベースでつくり、共感してくださる企業様と一緒にエコシステムのプロトタイピングを行っていく機能があります。 これからの時代、1社だけで閉じていては、新しい産業を生み出すことは困難です。大企業、ベンチャー、学会、専門家などが同じビジョンを共有して、プラットフォーム側としてもアプリケーション側としても高速にプロトタイピングを回していく仕掛けとしてこのスタジオをつくりました。 電子情報医学会にご参画いただければ、このスタジオシステムも活用していただくことができます。これまで医療関係者だけに閉じていた学会に、民間企業もフラットな形で入っていただくことができるのです。

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