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【レポート】非連続経営研究会(第3回):有冬典子様「リーダーシップと成人発達理論」

開催日:

DBICが「資本主義の先にある未来の経営を再定義する」ことを目的に4回にわたって開催する「非連続経営研究会」。その第3回講演を2020年2月18日(火)、東京・日本橋のDBIC Tokyoで「リーダーシップと成人発達理論」をテーマに開催しました。

第3回のゲストスピーカーは、株式会社Corelead代表取締役/有冬C&Cコンサルティング代表の有冬典子(ありとうのりこ)様です。2019年1月に出版した著書「リーダーシップに出会う瞬間 成人発達理論による自己成長のプロセス」が大きな話題となっている有冬様が、同書のベースとなった成人発達理論を通して、これからの時代に必要とされるリーダーシップ像を解説してくださいました。 本レポートでは講演内容を再構成してお伝えします。

働き方改革や女性活躍推進の時代に求められるリーダーシップ

有冬 典子様(株式会社Corelead代表取締役/有冬C&Cコンサルティング代表) 有冬:2019年の1月に「リーダーシップに出会う瞬間 成人発達理論による自己成長のプロセス」という本を出しました。おかげさまで4刷くらいまで行っており、Amazonでもたくさんの評価をいただいております。 ビジネス本なのですが、小説仕立てで読みやすかったのがよかったのかなと思っています。読者層も幅広く、半分くらいが男性で新しいリーダーシップ像を探して読んでくださっています。 私は以前からキャリア分野を中心に「個人の生き方」や「仕事との向き合い方」に興味があって、そこをメインに研修やコーチングを行っていました。ところが近年になって働き方改革や女性活躍推進に携わるようになると、従来のリーダーシップ像は通用しないことがわかってきました。 簡単に言うと「自分らしく生きる」ということが、これからのリーダーシップ像には重要なのです。会社の役割意識にとらわれるのではなく「自分はどんな志や理念を持っているのか?」というコアを見つけるのが重要ですよ、ということをこの本には書きました。

心の成熟はOSのバージョンアップに似ている

有冬:本では「成人発達理論」と「NVC(Nonviolent Communication=非暴力コミュニケーション)」というふたつの理論をベースにしていますが、本日は時間の都合上、成人発達理論に絞ってお話をします。 成人発達理論には複数の代表的な研究者がいますが、私が最も参考にしているのはロバート・キーガン博士の「主体・客体理論(5段階)」というモデルです。わかりやすいモデルなので、資本主義にパラダイムシフトが起きてティール的な組織が必要となっている現在、個人としてはどう変化していくべきかのヒントになるのではないかと思います。 有冬:成人発達理論における「発達」には2種類あります。ひとつはスキルアップ。知識を頭に入れることで、アプリケーションの追加に当たります。もうひとつは心の成熟度です。これはOSのバージョンアップのようなものです。 キーガン博士を参考に私が心の成熟度モデルとして本で提示したのは、「第2段階:エゴリーダー」「第3段階:八方美人リーダー」「第4段階:コアリーダー」「第5段階:エルダー」というステップです。 本当は第1段階や第6段階以降もあるのですが、一般的な社会人とは関係が薄い部分なので本日は省略します。また、講演用にシンプルに話をしていますが、実際はこんなに単純ではなく、各段階を行ったり来たりしながら複雑に成長するものだということは頭の片隅に置いてお聞きください。

第2段階:エゴリーダーは自分を守るために必要なプロセス

有冬:まず「第2段階:エゴリーダー」からご説明します。年齢で言うと5歳くらいから18歳くらいで「自分軸」で物を見てしまい、他人の痛みを想像できない段階です。例えばお友達を叩いてしまっても、相手が傷つくことがわかりません。ですから親や先生の目の届くところで大人が「相手のことも考えましょう」とか「ルールを守りましょう」と教育していきます。 これを「社会化」の段階と呼びます。これが進むと18歳以降に「第3段階:八方美人リーダー」へと発達していきます。「他者軸」で物が見られるようになるわけです。就職活動で学生が一気に髪を黒く染めてリクルートスーツを着るのがその典型です。 それでは第2段階は悪で、第3段階が善なのか、というと全くそんなことはありません。第2段階は「自分の命を守って生き抜く」というチカラを習得していくための重要なプロセスです。もちろん、第2段階のまま大人になってしまうと問題を起こすこともあるかもしれませんが、子供のワガママを見た大人が「早く社会適応させなきゃ」と焦って教育し過ぎるのも危険です。 結果として十分に自己主張ができなかったり、ハラスメントの被害者になってしまうような大人になったりするかもしれません。オーガニックに痛い思いもしながら学び、成長していくことが大切です。

第3段階:八方美人リーダーは社会で生き抜くための適応

有冬:今日、会場にいらっしゃるみなさんは「第3段階:八方美人リーダー」が多いかもしれません。他者の期待を読んだり、気配りをすることに長けていて、それが極まると八方美人になりがちです。 もちろんこれも悪い段階ではなく、周囲の期待に応えることでコミュニティに内での安全を手に入れるための必然です。社会適応とはそういうことで、集団は第3段階の人が多い方が安定しますし、社会や国の制度の多くは第3段階向けに設計されています。 会場の様子 有冬:キーガン博士も「成人の7割くらいは第3段階で寿命を迎える」と書いています。ただし、博士の論文は1980年代のもの。それから約40年が経って大幅に長寿化が進んだ結果、第4段階まで進む人が増えているのではないか、という意見も出ています。

第4段階:コアリーダーになって初めて自分の人生を生き始める

有冬:「第3段階:八方美人リーダー」から「第4段階:コアリーダー」へのシフトは、周囲にあわせたり期待に応えたりするのが苦しくなって、自分の主張ができるようになったときに起こります。 第2段階から第3段階にシフトしたときに大人から「がまんしなさい」と言われて置いてきた自分の欲求を、もう一度取り返す段階です。「自愛」の段階、「コアな願いを掴む」段階とも言われ、成人発達理論の中でもこのシフトは過酷なものです。集団に居る利益よりも自分の考えを優先するため、孤独になる恐れを感じるからです。 第4段階では第2段階と同じ「自分軸」に戻ってきますが、第3段階を経ているので単なるワガママではなく「みんなの言うことや会社の事情はよくわかった。その上で私はこういう思いを持っている」という理念や志のような自己主張になります。キャリアデザイン的には第4段階にシフトして初めて自分の人生を生き始めると位置づけます。 本研究会のコーディネーターを務める横塚裕志(DBIC代表) 有冬:リーダーシップも第4段階からと言われています。第3段階でもリーダーシップは可能ですが小学校の日直のように「先生が言っているからみんな掃除してください」という趣旨の呼び掛けしかできません。企業の中でもこのタイプが散見されるのではないでしょうか。 私の本も第3段階から第4段階へのシフトを中心とした物語になっています。人口的に多い層ですし、そういう成長を応援したいと思って書きました。特に日本、なおかつ女性だと第2段階の練習が足りなくて「真面目だけど自己主張ができない」というリーダーが多い傾向があります。現代社会で良いリーダーとされる「第4段階:コアリーダー」になるためには第2も第3もやり尽くすことが重要なのです。

第5段階:エルダーは自己の価値観を手放すことができる

有冬:第4段階の良いリーダーを続けていると自然と周囲の評価も上がり、地位や派閥を手に入れることができます。一方で、歳を取って自分の言うことが古くなったり、外部の人と対立構造になる可能性が出てきます。 そんなとき、自分を信じてくれた人たちの手前、一度掲げた旗を下ろせなくなってしまうことがあります。理念とアイデンティティの同一化です。これが第4段階が直面する危機であり、対応を間違えるとパワハラに繋がってしまいます。 有冬:自分の弱さや理念のほつれが自覚できたり、外部から自分の立場を脅かす存在がやって来たとき、隠したり戦ったりするのではなく「そうか。自分は上り詰めてきたけれど完璧ではなかった。他者にも一理ある」と、自分の価値観への依存を手放すことができるのが「第4段階:コアリーダー」から「第5段階:エルダー」へのシフトです。 これを「自愛から慈愛へ」と呼びます。第4段階が「会社のため、チームのため」というリーダーシップだったとしたら、第5段階は「会社が地球のためにできる役割はなんだろう。7世代先まで考えたときに今なにをするべきだろう」と考えずにはいられないという状態です。

葛藤は発達のサイン

有冬:冒頭にお話した通り、実際には人間の発達は複雑かつ多様なので一概に「あの人は第3段階」などと定義することはできません。例えば仕事では第4段階の人が、趣味のピアノでは第3段階だったりします。ひとりの人間の中でも分野によって発達段階は異なり、一日の中で段階を行ったり来たりすることもあります。 本研究会のコーディネーターを務める江上広行様(株式会社URUU代表取締役) 有冬:また、これもお話しましたが「発達段階が上に行くほど良い」というわけではありません。社会においては2や3の人も必要で、全員が4や5になればよいという話ではないのです。 一般的には段階をひとつ上がるのに5年から15年くらいかかって、オーガニックに進むと言われています。その中で何度か自分にとって不都合な状況に陥り、大きなショックを受けることになります。そんなとき成人発達理論を学んでいると「これは発達が起きているのではないか?」と受け止めることができるかもしれません。 自分が今まで「正しい」と信じていた枠組みが揺り動かされて、思い込みが通用しなくなるから葛藤が起きます。例えば「誠実にこの会社で働いていれば必ずいつか報われる」と信じていたのに、突然リストラされる、といった場面です。 真実は「誠実に働いていようがいまいが、リストラされるときはされるし、されないときはされない」です。こういった事態に直面すると葛藤が始まり、次の段階にシフトできるまで続くのです。

人間の「3大恐れ」という仮説

有冬:発達段階をひとつ上がると、恐れがひとつ減ります。本の共著者である知性発達科学者の加藤洋平先生との対話で出てきた概念ですが、第2段階は「自分が損する」ことを恐れ、第3段階では「自分が嫌われること」を恐れ、第4段階では「自分が無価値だと感じること」を恐れているのではないでしょうか。 私はこれが人間の「3大恐れ」ではないかという仮説を立てています。実際に、数百年前まではコミュニティで嫌われたら井戸の水を分けてもらえない、という時代もありました。でも今はそんなことありませんよね? また、企業で働いていらっしゃれば「価値がない存在がいるからこそ価値を生み出せる」という側面をご存知ではないでしょうか。 そうやって「損しても良い、嫌われても良い、無価値でも良い」というふうに恐れを取り除いて葛藤と向き合い、自分らしいリーダーシップを発揮するにはどうしたらいいかという話に進みます。

自分の内側が、外側の現実をつくっている

有冬:多くの研究者が、21世紀のリーダーにとって最も重要なのは「自己認識力=セルフアウェアネス」、つまり「内省力」だと提言しています。自分の内側にある感情、価値観、思い込み、恐れをしっかり見つめるチカラがないと良いリーダーにはなれないということです。 少し唐突に感じるかも知れませんが「起点が現実を創っている可能性」について説明します。簡単に言うと「私達はものを見るときに、自分が興味のあるものしか見ることができない」ということです。これはRAS(脳幹網様体賦活系)の機能によるもので、単純な例を挙げると、大勢の人が話しているような環境でも遠くから自分の名前を呼ばれるとちゃんと聞こえるのと同じです。 会場の様子 有冬:以前に研修を担当したある部長さんのお話をします。彼はいつも提出物が遅い部下のことで悩んでいました。こちらから「大丈夫か? 手を貸すよ?」と声をかけても、部下は「大丈夫です」としか答えず、それでも毎回提出期限に間に合わないのですが、どう指導したらよいのでしょうか、と。 ここで問題なのは部長さんが「外部に原因を探している」という点です。重要なのは内省ですから「自分自身に原因を求めてください」とお話してみたところ「私はこの部下のことを信じていないことに気づきました」とおっしゃってくださいました。だから「大丈夫か?」という声かけにも不信が含まれていて、それを部下に察知されていたから同じことが繰り返されていたのです。 有冬:そこで私から部長さんに「本当はどうしたいですか?」と質問を重ねたところ「失敗してもいいから成長する部下の姿を見てみたい」という言葉が出てきて、それが行動の変容につながっていきました。これが「起点」の仕組みです。外部に原因を探すのではなく、内省から自分の行動を変えていくのです。

自分の恐れにちゃんと向き合っているか?

有冬:まとめます。現実は行動がつくりますが、行動の元になるのは起点、即ち自分の内面です。そこに「恐れ」が混じっていると、その恐れを現実化するために行動してしまうという仮説を私は持っています。 ですから、自分が何を恐れているかにちゃんと向き合うことが重要です。そしてエゴではなくコアな願いから行動した方が願いが叶いやすい、ということを本の中でも書いています。ただし、成人発達理論のパートでもお話した通りエゴも自分や仲間を守るために重要なので、コアが良くてエゴは悪いという単純な話ではありません。 重要なのは自分がエゴとコアのどちらで動いているのかを自覚することです。わかった上でやっているのか、無自覚にやっているのか。例えば「ストレス解消のために無駄な買い物をしている」とわかってやっているのは大丈夫です。ただ、自覚せずにそれをやっていると買い物中毒のようになってしまいます。 自分の恐れを確認すること。自分の行動がエゴなのかコアなのかを自覚すること。その上で、自分が本当に何をしたいのかを意識してみることが、これからの時代に求められるリーダーになるために重要です。

プロフィール

有冬 典子株式会社Corelead代表取締役/有冬C&Cコンサルティング代表) メーカーにて総合職を3年間経験後、外資系人材派遣会社へ転職。飛び込み営業での新規開拓および深耕営業を担当。入社3年目で全社営業マン800人中2位の成績を納めトップセールスとなる。 その後、150名をマネジメントする経験を得て、豊かな働き方や生き方を実現するためには、自律型キャリア意識の確立とコミュニケーション能力が必須と痛感。2002年「私を生きるあなたと生きる」を活動理念に、シーズ・キャリアリサーチ(現有冬C&Cコンサルティング)を立ち上げ、独立。 企業・地方自治体にて研修講師活動やセミナー企画主催を展開する傍ら、プロジェクトのチームのリーダーとして複数の若手講師の育成、マネジメントを行いリーダーシップの経験を積む。 2017年、自らのコアな願い(理念・志)から周りに影響力を発揮する、戦わないのに無敵のリーダーシップ「コアリーダー」育成の株式会社Corelead(コアリード)を立ち上げる。 階層別研修、女性のリーダーシップ開発、組織風土改革コンサルティング、ダイバーシティ及び女性活躍推進普及講演や研修を中心に年間100本以上の登壇数を抱え全国を飛び回り活動している。

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デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)が活動を続ける理由

設立エピソード

2014年、世界で起きていることを肌感覚で確かめるため、半年をかけて世界を回った。そこで感じた危機感を日本企業に正しく伝え、行動を促すための研究会を発足するために奔走。26社の名だたる企業と世界有数の大学と連携し、デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)の立ち上げとともに我々のイノベーションジャーニーが始まった。

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