私も、DBICにおける江上広行さん(株式会社URUU代表取締役)のワークショップで「対話」を取り上げていただいたとき、「質問会議」という方法論で面白い体験をしてみて、「問い」のインパクトを痛切に感じました。それは、私を題材にして、10人位の方が私の悩みについて、アドバイスをするのではなく、質問を浴びせるというワークショップでした。私の悩みは、「DBICのイベントに参加していただく方をもう少し増やしたい」というもの。「なぜ、増やしたいのか」「参加者を増やすことがあなたのゴールですか」から始まって、1時間ほど10人がどんどん質問をしかけてくるので、それに答えているといつの間にか、自分の本来考えるべき真の課題が見えてくる感じがしました。実に、不思議な体験でした。
2020年3月末に出版された書籍『問いこそが答えだ!』(ハル・グレガーセン著、 光文社)のなかに、「問いを立てること」には二つの効用があると書いてあります。その効用とは、「問い」は誰かを責めないことと、問いが問いを誘発して連鎖していくこと、とありました。まさにそれが大きな魅力なのかもしれません。問題点を指摘するとやはり誰かを責める感じになりますが、「問い」であればかなり柔らかい感じになります。 そして、「問い」の答えを考えていると、だったらこれも変だよねと連鎖します。私が10数年前に体験した素晴らしい「問い」とそれの連鎖を以下にご紹介したいと思います。保険会社の話なので分かりにくい部分もあるかと思いますが、何か参考になると思い書きます。
一つの問いが全代理店・全社の商品改革・プロセス改革・基幹系システム全面再構築(数百億の予算)に至ったプロジェクトを、「問い」を中心において整理してみました。個人名を出して問題がでるといけないので、小説風に書きます。 2004年8月、この7月からCIOに着任した専務Aは数週間かけて現場を回り感じてきたことについて、IT企画部長Bを呼んで「問い」を出します。 「社内の仕事、代理店さんの仕事をみると、血液がサラサラ流れている感じがしない。なぜ。」 「血液がサラサラと言われても。例えば、具体的にどんな感じですか。」 「代理店さんがオンラインシステムの操作が難しいので面倒だ、と言っている。」 「それは、操作が難しいのではなくて、商品の内容やルールが複雑だからです。システムの操作は現場の姿を映す鏡ですから。」 「ということは、商品内容やルールをシンプルにするとシステムもシンプルになり、血液サラサラになるのか。」 「その通りです。」 「では、何が複雑なのかを調べてみてくれないか。」 という対話からプロジェクトは始まりました。 現場でお客様と接している代理店さんにインタビューしてみると、やはり商品内容やルールが複雑で、例えば保険料をお支払いただく方法がなんと50通りもあったり、自動車保険で事故時にお支払いする保険金の種類が100を超えていたり、個別最適の繰り返しで人間の判断の限界を超えていることがわかりました。 また、代理店さんからはシステムの操作性そのものの問題も多く指摘があり、代理店さんから「問い」が投げかけられました。 「なぜ、操作性が複雑になっているのだろうか」 これは、難しい問いでした。個々の問題に個々の理由はあるのですが、真の問題は何かを問われたのです。そして次のような答えが出ました。 社員が利用しているシステムのうち一部を代理店さんに開放していたために、保険に詳しい人を前提としたシステムになっていた、という結論でしたので、代理店さん向けにシステムを作り変えて、それを社員が使えばいいという真逆の考え方でシステムを再構築しました。 それ以外にも、「問い」の連鎖は続きました。 「お客様から保険料を現金でいただくから一定の事務量が発生している。保険料は現金でいただく、という業界の憲法はなぜあるのか。」 そこで、憲法を変えてキャッシュレスにしました。 いろいろ書きましたが、結果、商品の約款構造、ルールの簡潔化、すべての保険料キャッシュレス化、すべての事務のオンライン化を実現することになりました。これって、もしかしたら今どきのDXかもしれません。
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