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【横塚裕志コラム】もう一つの緊急事態宣言と経営スキームのUNLOCK

コロナとは別に、実はもう一つの緊急事態宣言が国連から発信されている。それが、「持続可能な開発目標(SDGs)」である。
2030年までに17の目標を完全に達成しなければ人類や地球の持続的な発展は望めない、という緊急事態宣言であり、政府や個人だけでなくビジネス分野での取り組みも必須だと述べている。この宣言文を読むとその緊迫した危機感を強く感じるが、例えば、「地球温暖化」の事象を見ても、グリーンランドや南極の氷が融けてベネツィアのサンマルコ広場が水浸しになるとか、数十年に一度の災害が毎年起こるとか、シベリアの永久凍土が融けて古いウイルスが生き返るとか、緊迫したニュースに毎日にように触れる。まさに、緊急事態だと感じるとともに、私たちビジネスが過去にやってきたCO2排出などの行いの責任を痛感する。

加えて、世界の機関投資家はESG投資(E:環境、S:社会、G:コーポレートガバナンス)に大きくシフトしているようだ。ヨーロッパだけでなくアメリカでもESG投資の方向が強くなっており、特に重要性の高い8分野で本質的な対策が打てていなければ、機関投資家にとって有望な投資対象とはみなされない時代になっている。だから、企業は、単なるイメージアップ戦略で取り繕うような態度では世界の機関投資家から退場を言い渡される状況になっている。日本企業も、そろそろスーツにつけた17色の丸いバッジを外して、本格的な対応を戦略の中心に置く必要があるのではないだろうか。ESG投資が特に重要と考えるのは、「気候変動」「農業」「森林」「水産」「水」「感染症」「パワーシフト」「労働・人権」の8分野である。

さて、各企業で具体的にSDGsに取り組み始めているが、このテーマは今までの経営戦略とは全く違う要素が多く、多くの企業で戸惑っているのが実態ではないだろうか。その主たる理由は、20世紀から続けてきた経営の意思決定の仕組みや組織・人財をそのまま使おうとしているからではないだろうか。今までの成功体験がかえって障害となって、前に進みにくい状況になっているように感じる。つまり、20世紀の当たり前の経営スキームをUNLOCKして、新しいスキームに変革することが必要なのではないだろうか。SDGsの取り組みの特徴とその検討のためのUNLOCKについて、二つのポイントを書いて皆さんのご参考にしていただこうと思う。

1.ゴールからの逆算でプランを作る

20世紀型の常識的な経営計画は、現在のマーケットポジション、ライバルの動き、技術の動向、狙うROIや売上額、現在のリソースなどを念頭に置いて、現在から3年先や5年先に想いを馳せて線を引いていく考え方である。
ところが、これではSDGsに本格的には取り組めない。現在から数年後に向けて線を引いていく考え方では、世間体を気にしながらのコスト増を招かない程度の施策しか思いつかない。その程度の「努力はしている的な」取り組みでは人類は救えないし、世界の機関投資家からも愛想をつかされる可能性が高い。
本格的に実行するためには、2030年のあるべきターゲットを先に決めて、2021年から10年間をどのように進めていくかを逆算で考えることが必要になる。自動車産業が既に直面しているような、例えば、10年後15年後にエンジン車販売停止、電気自動車への全面切り替えを大胆に計画していくようなことが、各産業で求められているのである。これは、実は今までの経営計画づくりとは大きく考え方が違うので、かなり難しい作業となる。現在からの延長線上で考えようとすると、技術的にも、リソース的にも、とても実現できそうにないゴールを設定せざるを得ないからだ。
つまり、現在は想定していないイノベーションや、現在は自社にない技術力、自社にないリソースをつぎ込んでいかないと実現できない計画を創ることになる。これは、20世紀型の考え方から大きく脱皮するものだ。20世紀からのUNLOCKが経営陣や企画担当者に求められる。今までは、実現しそうにないことを書いたら大目玉を食らっていたのに、今度は、夢を書き連ねていくことが求められるのだから。
ケネディ大統領が、「10年後に人を月に送る」というアポロ計画を立案したことで多くのイノベーションが起きたことがイメージされる。それくらいに、SDGsへの取り組みはハードだということだ。

2.SDGsの課題解決は「未知」の世界

17の目標、ESG重要8分野、いずれも今までの自社のビジネスのノウハウでは考えられない未知の分野に取り組むことになる。
まず、どのテーマにどのようなゴールで取り組むべきかを設定することから、かなり難しい。企画する能力として、自社ビジネスにはない専門知識や世界の情報などを学習・収集しなくてならない。知識だけではなく、未知の世界に挑戦する勇気やマインドも重要な要素だろう。さらに、企業が社会に対して果たすべき役割・責任をビジョンとして定めなければ、テーマ設定などおぼつかない。

また、計画を策定した後も、リアルタイムで世界の多くの情報を集め続け、学習しながら計画の修正をアジャイルに実行していくことも必要だろう。今までの経営計画とは全く違う計画・実行プロセスになることは容易に想像できる。

これを実行する人財、社内の組織形態を想像すると、少なくとも20世紀の成功体験を捨てないと何も始まらないということは直感で理解できる。20世紀の延長線上には未来はないと感じざるを得ない。20世紀をUNLOCKして、白紙のきれいな状態に戻して、2030年に向けたビジョンを作り、専門性を学ぶプロセスを作り、社外の多くの仲間を作り、知財などをオープンにして、人類全体で解決に取り組む新しい考え方にシフトすることが求められているように思う。新しい山を登るルートは企業によってまちまちかもしれないが、海と陸を行き来していた両生類が陸のそれも高い山を登るために両生類を捨て去るように、私たちも大きく脱皮する行動、即ちUNLOCKから始めなければならないように思う。

著者紹介

横塚 裕志 Yokotsuka Hiroshi
一橋大学卒業。1973年、東京海上火災保険入社。2007年に東京海上日動火災保険の常務取締役に就任、2009年に東京海上日動システムズ株式会社代表取締役社長就任。2014年より特定非営利活動法人CeFIL理事長となり、2016年にデジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)を設立、以降代表を務める。DBICでは日本を代表するメンバー企業約30社と共に、DX促進や社会課題の解決に取り組んでいる。
  • 特定非営利活動法人CeFIL 理事長 / DBIC代表
  • 日本疾病予測研究所取締役
  • 富山大学非常勤講師

デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)が活動を続ける理由

設立エピソード

2014年、世界で起きていることを肌感覚で確かめるため、半年をかけて世界を回った。そこで感じた危機感を日本企業に正しく伝え、行動を促すための研究会を発足するために奔走。26社の名だたる企業と世界有数の大学と連携し、デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)の立ち上げとともに我々のイノベーションジャーニーが始まった。

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