【レポート】企業変革実践シリーズ第11回「自分を信じる力~UNLOCKのためのマイノリティデザイン」

2021年6月10日(木)、DBICでは企業変革実践シリーズ第11回として「自分を信じる力~UNLOCKのためのマイノリティデザイン」をオンラインで開催しました。今回は『マイノリティデザイン~弱さを生かせる社会をつくろう』の著者で「ゆるスポーツ」の生みの親である澤田智洋氏と、2019年のDBICシンガポールイノベーション創出プログラムを通じて障がい者就労の新しいモデル創発の取組み「TomoWork」を立ち上げた住友生命の百田牧人氏、それにDBICの渋谷健ディレクターを加え、"弱さ"への囚われをUNLOCKするための時間を共有する形で開催されました。

まず澤田さんから、「弱さを生かせる社会をつくろう」と思い至ったきっかけや「義足女性のファッションショー」について、さらに肩に乗せて日常生活を共にするボディシェアリングロボット「NIN_NIN」などを紹介して頂きました。
澤田さんの真骨頂と言えるのがフィールドワーク力。ターニングポイントになったのは32歳の時に授かった息子さんが視覚障害を持って生まれてきたことだったそうです。息子さんの誕生をキッカケに視覚障がい者の方あるいはそのご家族への取材を重ね、延べ200人強の人々に面談、その中でいろいろな発見があったとのこと。例えば曲がるストローやタイプライター、カーディガンは障害や怪我のある人を起点に誕生したそうで、これらに代表されるように障害がある人々のために開発された商品が自分の身の回りに溢れていたのにそれに気が付かなったことに衝撃を受けたそうです。
2つ目の発見が、医学モデルと社会モデルの考え方の違い。例えば、車椅子の人が路上に出たことを想定しましょう。段差があってどうしても乗り越えられないという局面に遭遇した時、「それは車椅子のあなたに責任があります」というのが医学モデルの考え方、他方で社会モデルでは「段差を作った社会側に問題がある」とされます。日本の障がい者運動においては1980年代からこの社会モデルが優勢となって、特に車椅子ユーザーや目が不自由な方の主張が受け入れられました。その結果、日本の都市部の多くの駅にはエレベーターが設置されましたが、これは海外から見ると驚異的で、ニューヨークでもパリでも欧米では駅にエレベーターはほとんど存在しないし、尚且つ欧州では道路が石畳で出来ているため、とても車椅子では通行できない。日本の場合は当事者運動が効果を発揮していて今のインフラがあることを多くの人から学んだと言います。この2点を知ったことから澤田さんはマイノリティの観点から仕事をしたいと決心したそうです。
講演の後半では、澤田さんが関わってきたマイノリティデザインの具体例をいくつか紹介して頂きました。細かく分けると100以上の事例があるそうですが、その中で最初に紹介されたのが「義足」のマイノリティデザイン。義足を何か魅力的なモノに"翻訳"できないかとゼロから企画したのが「義足のファッションショー」。2015年2月からスタートし、毎年3回から4回ほど東京・大阪・京都などで開催しているとのこと。義足をファッションアイテムとして取り上げ、義足女性を前衛的なカッティングエッジなファッションモデルに再定義することにチャレンジ、モデルの女性たちも日本製義足の持つ魅力的で美しいデザインを積極的に見せていこうと協力を惜しまないそうです。
もう1つ、紹介していただいたのが「視覚障がい者が信号を渡れない」というマイノリティデザイン事例でした。音で知らせる信号機の日本の設置率は現在10%程度。どの信号機も近隣の苦情を考慮し、21時以降は音が止められてしまう。この問題の価値転換をするために現在、澤田さんが取り組んでいるのが「NIN_NIN」というロボット開発プロジェクト。視覚障がい者の肩に乗せるロボットで、例えば、自販機でモノを買うときにボタンの位置を教えてくれたり、タクシーが近づいてきたらそろそろ手を挙げてと教えてくれたりする優れもの。この仕掛けの秘密はAIではなく"人"。パートナーが遠隔からアドバイスしてくれる仕組みで、このパートナーも障がい者の方。筋ジストロフィーやALS(筋委縮性側索硬化症)で寝たきりの方が自宅のベッドに居ながらスマホなどでサポートをしている。寝たきりの人にとっては視覚障がい者の人の肩に乗りながら、お出掛けしている気持ちになれる。これは、どちらかが相手を助けるという考え方ではなく、お互いが持っている身体機能をシェアしようというコンセプトで、フラットな関係性をつくることを目的にしていると澤田さん。そんなことから澤田さんたちはボディシェアリングロボットと呼んでいるそうです。今年5月からは高知県でコロナ禍中のオンライン観光手段としてNIN_NINを活用。高知で渓流下りやカツオの一本釣りなどの「肩から映像」が人気を博しているようです。
最後に紹介されたのが、「車椅子だとスカートが穿きづらい」というマイノリティデザイン事例です。車椅子の女性ユーザーからの要望を解決するために手掛けたユナイテッドアローズとの041(オールフォーワン)というプロジェクトで、縦にジップが5本ついているスカートをデザイン。これは全部閉じるとタイトスカートになり、開けるとフレアーになるというもの。ジップを全て閉じて車椅子に座れば車輪に巻き込まれない。当初は、車椅子の女性ユーザーのために開発したものですが、実際、購入している方のほとんどが一般の女性だと言います。5本のジップがあるので、様々なスカートの表情を演出できるのが受けているようです。
澤田さんによると、ファッション業界における商品開発は、来年のトレンドカラーはこれだと先に情報を決めてロジックを積み上げて製造している。これはユーザーの視点に立ってモノづくりをしているとは言えない。本質を突いていない。その結果、大量生産し、売れ残って、大量廃棄をしている。地球環境に滅茶苦茶、付加をかけている産業だと。ユナイテッドアローズの開発メンバーは毎年、新しい服を作るにあたって凄く罪悪感を抱いていたそうです。このスカートのデザインで社員のモチベーションが大いに高まった。Twitterで紹介したらZ世代やミレニアム世代を中心に延べ111万回の視聴があったそうです。
最後の最後は、「自分もマイノリティ。」のお話し。澤田さんは運動音痴だそうで、これを社会モデルの視点から捉えると「スポーツの方が悪い」となる。いろいろ調べたら日本の成人の44.9%がスポーツ弱者だった。それで、これをどうにかしたいと2016年に「世界ゆるスポーツ協会」を立ち上げ、現在までに90以上の競技を開発。その中にはセンサーの残歩数がゼロになったらいったん退場させられる「500歩サッカー」や専用ウェアを着て這ったり転がったりしてプレイする「イモムシラグビー」などがあり、体験競技人口も20万人に達しているそうです。
澤田さんの講演は冒頭の約30分行われ、その後は、百田さんの進行の下、主に参加者からのチャットによる質問に回答する形で進行されました。質問は、ユナイテッドアローズへのアプローチ、NIN_NIN開発秘話、ゆるスポーツに着手したキッカケとゆるスポーツの新企画、つまずいた時の突破方法など多岐にわたるものでしたが、その内容の詳細については割愛させて頂きます。

【スピーカーご紹介】

澤田 智洋(さわだ ともひろ)氏
コピーライター、世界ゆるスポーツ協会代表理事
1981年生まれ。言葉とスポーツと福祉が専門。幼少期をパリ、シカゴ、ロンドンで過ごした後、17歳で帰国。2004年、広告代理店入社。映画「ダークナイト・ライジング」、高知県などのコピーを手掛ける。 2015年にだれもが楽しめる新しいスポーツを開発する「世界ゆるスポーツ協会」を設立。これまで90以上の新しいスポーツを開発し、20万人以上が体験。また、一般社団法人障害攻略課理事として、ひとりを起点に服を開発する「041 FASHION」、ボディシェアリングロボット「NIN_NIN」など、福祉領域におけるビジネスを推進。著書に『マイノリティデザイン』『ガチガチの世界をゆるめる』がある。

百田 牧人(ももた まきと)氏
住友生命社員、1級ファイナンシャル技能士、TomoWorkイニシアチブ・ファウンダー。
1999年住友生命に入社。カスタマーサポート、マーケティング、商品開発などの企画業務を経て、現在は新規事業開発・オープンイノベーション業務に従事。
2019年DBICシンガポールイノベーション創出プログラムに参加。障害者就労の新しいモデル創発を期しTomoWorkを立ち上げ、現地で20社を超える企業のサポートを得ながらタレントアクセラレーションプログラムを展開している。著書として業務改革プロジェクトの知見をまとめた『ファシリテーション型業務改革 ストーリーで学ぶ次世代プロジェクト』(共著)がある。

渋谷 健 (しぶや たけし)
DBICディレクター

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