【横塚裕志コラム】変革を手段に丸投げして 本質的な企画ができていないのではないか

前々回のコラム「BAの役割を明確に定義すべき」で、「変革」という行為自体の構造を俯瞰した。そのくだりを以下に再掲する。

「変革を実行する」という構造を俯瞰すると、①変革モチーフ②デザイン③開発④実践という構造になっている。このうち、「②デザイン」がBAの役割だが、ここが軽視されているのだ。どう考えてもまずい状況だ。巷には、③だけの変革や③④だけの変革など、偽物が横行していて単なるIT化に留まっている。
何とか日本にBAの役割を定着させていく必要があると思う。よく日本企業の状態を「思考停止」と表現されるが、①②が思考のステップであり、ここが省略されてしまっている状態なのだろう。

上記はBAの業務を対象として、ビジネスを変革するときの構造を俯瞰したが、この構造は、別の業務を対象としても成立する。例えば、人材育成という業務を変革するとき、同じように、①変革モチーフである「DX人材が不足しているとする問題意識」があり、②デザインとして「どのような人材をどのように育成するのか」を考えるステップがあり、③開発として「研修やコーチなどの調達」を行い、④実践として「実施する」ステップとなる。同じ構造だ。これは、経理であれ広報であれマーケティングであれ、みな同じ構造だ。

そこで、日本企業の課題を感じるのは、総じて②デザインというステップを軽視しているのではないか、ということだ。BAの役割が軽視されているのと同じように、他の業務でも②デザインのステップが薄い感じがする。あるいは、軽視していないにしても、担当する人材がその業務を実行するだけの能力を持っているか、という問題があるように思える。
例えば、人材育成について考えると、人事部門の担当者が「DX人材を育成せよ」という変革モチーフを与えられた時、②デザインをどのように実施しているだろうか。③開発を担当している外部の研修会社のプログラムからよさそうなものを選択しているだけとなっていないだろうか。
本来であれば、DXとは何か、当社のDXは何を目指そうとしているのか、その当社のDXを企画できる能力はどんなマインドとスキルなのだろうか、ということを考え、育成すべきDX人材に求められるケイパビリティを分析することが必要だ。そのうえで、どのようなトレーニングが必要かを考え、その手法を選択する。加えて、その人材が活躍する受け皿の組織を特定し、プロジェクトのスケジュールなどとの調整を図る。それが、人材育成の②デザインだ。それができているだろうか。③開発を依頼している研修会社に②デザインまで委託してしまっているようなことはないだろうか。DXは各社それぞれの生き残り策であり、第3者が考えられるものではない。
これは、「広報」という業務でも同じことがいえる。今までは、広告会社に③開発を委託しておけばよかったが、メディアがテレビや新聞からデジタル系に大きく変わってしまった状況のなかで、どのようにメディアミックスするのかという変革を迫られているが、その②デザインを担当する人が、③開発を担当する会社にデザイン業務まで丸投げしてしまう状況に陥ってはいないだろうか。BAも人材育成も広報もみな同じ構造だ。②デザインが軽視されている。

丸投げでいいのだろうか。デジタル、人材育成、広報、今や経営のコアとなる大事な業務だ。これを外部の会社に丸投げしていいのだろうか。その危機感から、デジタル系は徐々に「内製化」の動きが加速しているようだ。デジタルだけでなく、コーポレートの機能すべてで今の丸投げ体制を見直すことが必要なのではないだろうか。

時代が大きく変化して、今まで通りのオペレーションを効率化していれば済む時代ではなくなった。経営戦略、マーケティング、人事、デジタル、広報、経理、すべての分野で「変革」しなくては生き残れない状況が来ていると認識するならば、その「変革」を考えるべき②デザイン担当の人材を丸投げ体質から企画できる能力を持つ人材に育成し直す必要がある。
通常業務のオペレーションは先輩からOJTで学べても、変革を行う能力は学べない。「学び」自体を大きく考え直さなければならない。そして、グローバルに戦うためには、グローバルなレベルの学びを求めていかなければならない。もちろん、変革のためのマインドセットも通常オペレーションとは180度違うものだ。このマインドも含め、変革することができる人材のケイパビリティを改めて定義したうえで、「学び」をデザインしていく必要がある。すべてのコーポレート部門において、「変革」をデザインできる人材、これを育成しないと企業の「変革」は実現できないと思う。
だから、DBICは、イノベーションを起こすためにはLXによる人材変革から始めるべきと主張している。

参考

【横塚裕志コラム】BAの役割を日本でも明確に定義するべき

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