【横塚裕志コラム】生成AIの価値は「作業」の削減と「仕事」の武器

生成AIというソフトの利用が動き始めている。AIはシリコンバレーもさることながら、東欧での開発が非常に盛んなようで、ウクライナからポーランドに拠点を移して研究しているAgo-ra ITコンサルティング社 柴田代表と、世界レベルの技術力を持つオリエント社 二宮社長にDBICで最新事情をうかがった。
あるモチーフをChatGPTで言語化し、それを静止画生成ソフトで静止画に変換し、それを動画生成ソフトで動画に変換する、という一連のデモ作業を見て、これからのAIの発展のスピードを肌で感じた。GPUというハードの進化も大きな要素になっているようだ。世界ではやっているAIソフトのトップ15を初めて見て、私が思っていた以上に、というかその1万倍以上にAIがビジネスに既に大きな影響を与え始めていることを感じ、新しい時代の到来に震えた。お二人のお話に刺激を受けて、企業が競争の武器としてどのようにAIを活用するべきかについて感じたことを書こうと思う。

1.本社のコーポレート部門が自社の戦略立案のために利用する
生成AIは、戦略を「意思決定」する業務に大きな効果を発揮するのではないだろうか。経営戦略の企画、人事政策の企画、商品の企画、マーケティングの企画、デジタル化の企画などなど、すべての本社業務を大きく変革してしまうインパクトがあるのではないだろうか。
例えば「当社の置かれている状況はこれこれだが、それを打ち破る企画、特にB2Cの領域で大きなインパクトが出せる企画を作成したいが、それを考えるべき視点はどんなものがあるだろうか。」と投げかければ、AIが「考えるべき視点」を返してくれる。その答えに、さらに突っ込みを入れながら企画を組み立てていくことができる。戦略そのものの答えを期待するというより、最終的な戦略は自分たちで考えるとして、その手前の考えるべき視点の網羅性を確保する意味では、とてつもなくいい武器になると思われる。今までならコンサルに頼んでいたようなことがソフト上でできる。いや、たぶんコンサルより適切な答えになっているだろう。持っている情報量が格段に違うからだ。
生成AIのソフトは一つだけではないので、3つくらいと同じように議論すれば、セカンドオピニオンではないがいくつかの見解を受け取ることができて、企画の適切性や深度が深まる。すでに欧米では行われているそうだ。

生成AIをこのように意思決定の道具として活用できる状況となったときに、さて、日本企業でこれが実現できるだろうか。老婆心ながら2つのことが心配される。
① 担当者個人の能力として、適切な問いをソフトに対して発することができるか、と言う課題だ。たぶん、自分に熱量ある想いがないと深く突っ込んでいけないのではないだろうか。会社の枠や上司の指示などをそのまま伝言しているような態度では、ソフトが持つ情報量の価値を生かす問いが発せられない。なにか、薄っぺらい一般論的な企画に終始してしまうことが起こりかねない。そして、結局ソフトのせいにして活用をあきらめるということになりはしないだろうか。
② 組織にこのようなプロセスで企画した案を受け入れる土壌があるだろうか。社長が意図する方向性とは違う、とか、だれが責任を取るのか、などの議論が出ることが想定される。各社の器の範囲でしか意思決定はできないというのが世の理だとすると、そういう状況のままで競争力のある組織になれるのか、という大きな課題に行き着くかもしれない。

2.「利用すればするほど価値が獲得できる」という新しい世界に突入
AIソフトは1秒単位で進化している。そして、企業のコアの業務で武器として活用できるとなると、その活用方法はいままでのソフトとは大きく考え方を変えることになるだろう。今までのソフト製品は、現行の業務を便利にするように活用するという考え方で進めてきた。生成AIで「議事録を作成する」というのが一例だ。しかし、その考えかたの延長では、AIを武器として戦略に効果的に活用することはできないのではないだろうか。AIは、それを使う本人だけがそのソフトの利用価値を高めていける性質を持つものなので、深く深く使い続ける人自身が強力な戦力になっていくという特質がある。従って、深く深く使える人材をいかに増やしていくかが企業の競争力になっていくのではないだろうか。もしかして、英語で対話する方が日本語よりデータ量が格段に違うということであると、英語の能力が戦力の差になっていくのだろうか。もちろん、生成AIを活用するところだけ外部に委託するなどありえないことだ。
加えて、新しいソフトが日々誕生していく状況なので、常に世界中の新しいソフト情報を取得できるプロが社内にいることが必要だ。メディアや他社からの情報を待っている状態では、競争に負けるだろう。利用している人が最大の情報入手者だから、むしろ、自分で利用しないメディアの方が遅れてしまうことも起こらないとは限らない。

生成AIについて感じるところを率直書いた。あっているかどうかわからない。しかし、企業が強力な武器を手に入れるのか、入れないのか、という競争力に大きな差が出るテーマではないかと感じている。その視点で、準備を始めることをお勧めしたい。作業の効率化視点も重要で、価値を生まない「作業」、例えば議事録とか説明資料とかはできるだけAIに任せ、価値ある戦略立案の「仕事」をAIと共同作成するという2つの機能を意識して使い分けることが重要かと思う。

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