【横塚裕志コラム】「2025年の崖」とBA・PM・アーキテクトの育成

2018年9月に経産省が「DXレポート」を書いた。そのなかで、各社に存在する古い情報システム、すなわち、「レガシーシステム」が経営改革の足を引っ張る可能性があるとの指摘を行った。それから5年が経過したが、状況は改善したのだろうか。
最近、レガシーシステムを再構築するプロジェクトが苦戦しているとの話をうかがうことが多く、気になるところだ。再構築を決定する理由は、ブラックボックス化してメンテナンス時のコストが高くなった、とか、ハードやソフトのサポート切れで再構築せざるを得ない、などが多いようだ。

再構築に苦戦している理由で気になるのが以下のものだ。

  1. 当該システムの機能について、その目的・構造・詳細の設計図が既に存在しておらず、全貌も詳細も誰もわからない状態になっている。システムをメンテナンスする人も世代が交代しており、深く理解していない。ビジネス側も社内の定期異動で変わっており、理解している人はいない。
  2. ビジネス側にシステム再構築の強い要望がないため、開発予算が確保しにくく、光が当たりにくいプロジェクトになっている。一方で、企業のコアの一部を構成している要素でもあり、止まってしまうと企業の活動に大きな影響が出てしまうので、IT側の責任でやりくりに奔走している。

こういう状態では、間違いなくプロジェクトは成功しないだろう。このような事象は、少し歴史のある会社なら多くの会社に存在する悩みだろうと推測される。私もSEの仕事が長かったので、「現行通り」という仕様が一番曲者だということをつらい経験とともに体で理解している。「現行通りでよろしく」と丸投げされたベンダーも大変だ。

多くの人が困っているのなら、こうしてはどうかというのが私の提案だ。

  1. 「現行通り」が可視化されない限り、この手のプロジェクトはうまくいかないのだから、まずは「可視化」に取り組むというフェーズを明確に設けることをしてはどうか。
  2. せっかくコストをかけるのだから、現状を「可視化」した後、最新の技術を使うことにより、ビジネスプロセスの改革とシステム・アーキテクチャーの改革を実施する案を企画してはどうか。
  3. これを実施することを通じて、宮大工が遷宮で技術を継承していくように、BAやPM、システムアーキテクトを育成することも兼ねたプロジェクトにしてはどうか。
  4. 育成の要素を盛り込むことで、暗いお荷物プロジェクトから明るい改革プロジェクトに変わり、担当する人のモチベーションも上がるのではないだろうか。

再構築プロジェクトを人材育成プロジェクトとするという提案だ。
例えば、シニアなSEをBAとしてアサインする。そして、BAが「現行通り」というビジネス現場のプロセス可視化や、それを支える情報システムの機能を整理する役割を担う。そしてBAは、より簡潔な、より効率的な、より効果的なビジネスプロセス改革を起案することも同時に行う。こういう実務を担うことで、BAが成長し、他のどんな業務でも、BAのプロとして「業務の可視化」「業務の改革」を担当することができるようになることを狙う。そして、このようなプロ人材を増やしていくことで、組織が持つ改革力を強化していくわけだ。
これを、PM・アーキテクトでも同じようにやってみる。

BA・PM・アーキテクトのプロを育成するためには、机上の学習よりも実際の練習プロジェクトが大事な場であり、この場をうまく活用して育成を図れることは有効な機会だ。これらのプロ人材は、通常のメンテナンス的な業務ではその存在価値がわかりにくいかもしれないが、これからのVUCAの時代では必ずその存在が価値を発揮することは疑う余地もない。

残るは、育成したいと思ったときに助けてくれる機関があるか、という問題だ。生のプロジェクトの中に入り込み、実際の課題に立ち向かうBAを支援・育成する機関が必要だ。単にBABOKとかPMBOKを教えるのではなく、そういうBOKをベースにしながら現実の課題に寄り添いながらコーチしていただけるようなジムがあるといい。企業側もジム側もこのようなことを共感しながら、共に発展していけるエコシステムがあるといいと思うのだがどうだろう。

参考

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