【横塚裕志コラム】デンマーク大使が語る 競争力1位になった理由

DBICメンバー企業の幹部の皆さんとデンマーク王国大使館を訪問し、大使や大使館の方から競争力1位の理由をうかがいました。 ここでは、ピーター・タクソ-イェンセン大使からのお話を書こうと思う。

1. 持続可能性への取り組みが、成長・イノベーションをドライブしている

大使が語る。

「政府・民間・アカデミアが、サステナブル、特に温暖化への取り組みで世界をリードする気概で行動している。サステナブルな国にする、という変革モチーフが、政府や企業、大学に成長やイノベーションを起こしている。そして、これが競争力の源泉になっている。国民が、政府や企業の行動を注視しており、議員の選挙でもサステナブルへの考え方を投票の判断にしている。投票率は常に80%を超えており、毎回連立する政党が変わっている。」

このお話で私が思うこと。

  1. 国の方向性を決める変革モチーフがあるからこそ、成長やイノベーションを起こすことができる、ということを改めて考えさせられた。既存の路線をただ進めているだけでは、イノベーションを起こせと言われても起こすトリガーがないのだ。やはり、変革するには、それなりの危機感を持った本質的なトリガーを必要とし、それをトップが明確に宣言し、トップ自ら旗を振ることが必要なのだろう。日本政府も、GXや少子化など多くの課題を認識しているようだが、デンマークと比較して何かが決定的に足りない感じがする。
  2. 国民が、サステナブルを自分ごととして考えていることが凄い。スーツにSDGsバッジをつけるとか、マイバッグを持つとかというレベルの日本とは全然違う様相だ。サステナブルへの自分の考え方をしっかり持ったうえで、政治、政府、企業の行動に強く関心を持ち、正しい国を自分で創っていこうとする責任感が凄い。投票率80%がそれを示している。個人一人一人の「Integrity」の重みを感じる。「Integrity」は、日本語に適当な言葉がないのだが、私は「真摯さ」が近いと思う。倫理観高く、自分で学びながら自分の見解を考え、損とか得とかに惑わされずに正しく真摯に意見を言い、行動する、という姿勢が日本人とは違う。かっこいいのだ。その「Integrity」の一つ一つの積み重ねが、競争力になっている感じがする。

2.若者の批判的な問いに答えることが、イノベーションをドライブしている

大使が語る。

「企業の若手社員が、思っている疑問や問いを、ストレートに経営者に投げかける。そして、経営者がその問いに真摯に答えることでイノベーションが起きている。その問いは、サステナブルに関すること、効率性に関することだ。経営者にとって、その問いに答えることはかなりハードだが、その結果、新しい発見を促している。デンマークでは、「公平」を大事にしている。誰でも誰にでも意見が言える社会、性別に関係なく働く権利が行使できる社会構造を目指している。特に若者の意見が貴重で、それがイノベーションをドライブしている。」

このお話で私が思うこと。

  1. だれでも自由に意見が言えるフラットな社会、文化は企業にとっても、政府にとっても重要な要素に違いない。その対話の中で、新しい解決策が見つかってくる。逆に、ピラミッド型の文化では、上司に向かって自由に意見が言えず、解決に向けた対話が生まれない。そうなると変化が生まれず、せっかくのアイデアが埋もれてしまう。
    自ら各現場に出向き、若手社員を集めて意見を聞く機会をつくっていると自慢している社長がいるが、そういう場で批判的な意見を言えるわけがないと思う。フラットな文化は、長い時間をかけて作り上げてきた競争力だと思う。
  2. 批判的な意見が言える若手社員が素晴らしい。常に正しいことは何か、を考えながら生きているということがなければそれはできないだろう。そういう姿勢は、幼児のときからの教育に依存するかもしれないが、日本もそういうことを大事にする文化をつくっていきたいものだ。

以上二つの点を大使が話してくれた。
さて、競争力とは何なのだろうか。1989年から日本は1位を5年続けている。「24時間働けますか」が流行語大賞の年だ。今は、残業無し・5週間の休暇という国が、日本の生産性の1.5倍で1位を連続して取っている。
毎日同じ仕事を体力で頑張るゲームから、イノベーション・創造性で価値をつくるゲームに世界が変わってきたということだろうか。創造性は、個人が自立し、意見を自由に言い合うフラットな組織で、個人から生まれてくるものだということなのだろうか。
私たちは、1980年代の高度成長の時代の成功体験から目を覚まし、創造性・イノベーションのための企業のあり方を考え直すことから始めないとならないのではないだろうか。そのためには、頑張る成功体験を持つ年齢の高い方々は既存事業で金を稼ぎ、新しい事業やDXなどの新しい取り組みは若者に主導権を譲っていくことしかないのかもしれない。

先日、ベトナムの方が中心のコンサートに行った。指揮者39歳、ピアニスト27歳、オーケストラのメンバーもいかにも若い。演奏内容は、ベテランぞろいのオケと比べると円熟度は劣るが、一生懸命さが心に響いた。荒削りながら新しい時代を演奏している感じが心地よかった。そういうことなのではないだろうか。

参考

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