【横塚裕志コラム】ドラッカーに DXを学ぶ

DXをさらに強力に推進していくため、そのヒントを探しに、温故知新ではないが、ドラッカーを訪ねてみることにした。Xすなわち「イノベーション」についてのドラッカーの見解を学び、インサイトを得ようという試みだ。
主に、名著である「マネジメント」にあたってみた。50年前の著作にもかかわらず、多くのヒント満載だが、その中から3つの点を書こうと思う。いずれも、忖度なしのストレートな主張で、彼の激しく強い危機感を感じる。

1.DXの成否はトップマネジメントの能力に依存する
ドラッカーは、第61章「イノベーションのマネジメント」でこう書いている。
「現代というイノベーションの時代において、イノベーションのできない組織は、たとえいま確立された地位を誇っていても、やがて衰退し、消滅すべく運命づけられている。そのような時代に、イノベーションをいかにマネジメントするかを知らないマネジメントは、不適格なマネジメントである。これからは、イノベーションがトップマネジメントの能力を計る試金石となる。」

イノベーションの成否は「トップマネジメント」の責任だと明確に言っている。そして、「トップマネジメント」がやらなければならないことを二つ挙げている。

① 「トップマネジメント」たる者は、アイデアを奨励するにとどまらず、出てきたアイデアを「実際的、現実的、効果的なものにするには、いかなる形にしなければならないか」を問い続けなければならない。荒削りなばかげたアイデアであっても、実現の可能性を評価できるところまで検討させなければならない。

② イノベーションを行うには、組織全体に継続学習の風土が不可欠である。変化への抵抗の底にあるものは無知である。未知への不安である。しかし、変化は機会とみなすべきものである。変化を機会としてとらえたとき、はじめて不安は消える。

このドラッカーの見解を読んで、味の素の藤江社長を思った。先日のご講演で、「計画ばかり作る習慣は捨てて、行動することを重視するために中期計画を廃止した」という強烈なリーダーシップをご披露いただいた。メンバー企業の多くで、「トップマネジメント」の強い意志を感じることが増えている。

2.DXは経済や社会を変化させること
イノベーションの意義についても見解を示している。
「いまやイノベーションなる言葉は技術用語ではない。経済用語であり社会用語である。イノベーションをイノベーションたらしめるものは、科学や技術そのものではない。経済や社会にもたらす変化である。消費者、生産者、市民、学生その他の人間行動にもたらす変化である。」
イノベーションは社会構造を変えることと定義しており、その好例を別の著作で書いている。
「生産性を上げるための農耕器具が登場したが、かなりの高額で農家が購入できなかった。しかし、「割賦販売」という仕組みが編み出され、大きく社会構造を変えた。「割賦販売」こそ、イノベーションだ。」

まさに、DBICでも「障がい者の雇用イノベーション」を狙った研究会が動いている。NTTデータとJR東日本のコラボで、生産品+デジタル+運送+駅の組み合わせで地方の産業変革を狙うプログラムも動き始めている。

3.現状をすべて捨てる覚悟でイノベーションに立ち向かうべし
「イノベーションの戦略は、「われわれの事業は何か。何であるべきか。」との問いから始まる。既存事業はすべて陳腐化すると仮定する。既存の製品、サービス、市場、流通チャネル、技術、プロセスは遅かれ早かれ陳腐化すると仮定する。そして、「より新しく、より異なるもの」を追求する。昨日を捨ててこそ、人材という貴重な資源を新しいもののために解放できる。」と、イノベーションへの戦略を示している。

一方で、ドラッカーも書いているのだが、大企業の社員は既存事業を否定すること自体を嫌う習性がある。従って、イノベーションを担当する社員は、そういう今までの「認知」を捨てる作業を一度やらないと役割を果たせないのではないだろうか。
その事象は古くからわかっていたようだ。イノベーションの語源はラテン語で、in(なかに)とnova(新しくする)とが結びついてできているらしい。つまり、イノベーションとは、自らの内面、すなわち、モノの見方だとか認識だとか考え方だとか生き方などを改めることから始めないと実現できませんよと太古の昔からわかっていることらしい。DBICの「UNLOCK QUEST」「UNCHAIN QUEST」はまさに企業色の強い認知を捨て去る作業を行っているプログラムだ。

大日本印刷、電通デジタル、コニカミノルタなどでは、まさに既存事業ではない新しい事業での大きな成長が始まっている。

以上三つのテーマは、企業の社員にとっては実はあまり心地の良いものではない。社長の責任が大きい、とか、自社のビジネスは陳腐化する、とか言い出しにくい。だから、メディアや研修機関などでもこのようにストレートには言わない。 しかし、DBICのメンバー企業は、これらのテーマで奮闘している。自身を謙虚に反省しながら、日々努力されている。私たちDBICも、これらの戦略に沿って、より深い支援活動をしていこうと思う。

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