【横塚裕志コラム】この仕事をやらないから DXができない AIが活用できない

世界の多くの人が学んでいるある本にこう書いてある。

「DXを実行するためには、ニーズを定義し、ステークホルダーに価値を提供するソリューションを推奨することにより、エンタープライズにおけるチェンジを可能にする専門活動が必要。」

この宣言はある意味当たり前のことを言っている。しかし、現実はこの仕事に真剣に取り組むことができていないから、DXが進まない状況になっている。この仕事を疎かにしてデジタルに走るから、IT化とかPOCづくりでとどまっている企業があまりにも多い。AIへの取り組みも全く同様な現象が起きている。この宣言とは逆の順番で、AIを活用したいのだがネタはないだろうか、とか、データドリブン経営だから自社が持つデータで何かできないだろうか、というように逆に考える企業が実に多い。順番が違うと何もできないということに早く気がつかないといけない。

では、なぜこの仕事を多くの企業はやらないのか。たぶん、できる人がいないから、という理由と、こういう仕事が必要だということさえ知らない無知な状態だからという理由だろう。

この宣言をもう少し深く掘り下げてみよう。

1. ニーズを定義するとはどういうことか
この本では、「ニーズを定義する」とは「顧客が抱えている潜在的な課題を発見・発掘する仕事」だという。「潜在的な課題」をディスカバリする仕事をやりなさいといっているのだ。この仕事はそう簡単ではない。紙よりスマホの方が便利かな、というようなレベルではなく、顧客自身さえも気づかないが、実は深いところで本質的に抱えている課題を見つけ出す仕事が求められている。単純にヒアリングしても出てこない。シンガポールのアクセラレーターが口を酸っぱく語っていたのが「顧客のプロブレム・ステートメントを書け」ということであり、まさに「ニーズの定義」だ。
この難しい仕事を、大企業ではどの部門がやるべき仕事なのでしょうか。どの部門が担当部署だと決まっているでしょうか。たぶん、決まっていない。誰も担当がいない。だから、DXもAIもデータドリブンも始まらない。
担当部門が決まっていたとしても、この難しい仕事を実行できる能力を社員が持っているだろうか。10年も同じように目の前の仕事をまじめにこなしている状態では、課題を見つける能力はかなり衰えていると理解すべきだろう。深く洞察したり感じる能力がほとんど退化しているという典型的な大企業病が蔓延している。しかし、この仕事の成否がDXの成否、さらに言えば、企業の10年後の生き残りを左右することになるのだ。難しいなどと言っている時間はない。これができる社員を育成することに取り組まなくてはならない。大きな経営課題の一つと認識すべきではないだろうか。

2. ステークホルダーに価値を提供するソリューションを推奨するとは
ステークホルダーとは、このニーズを解決するために関わる多くの関係者を指す。関係者のそれぞれに対しての価値を創出し、それを実現することができるための業務改革、組織改革などを広くデザインする仕事が必要だと言っている。これも大変難しい仕事だ。これがデザインできないと、例えばマネタイズできないとか、利害関係が対立して実行できないとかプロジェクトが成立しないことになる。

先ほどの宣言に戻るが、この宣言は「BABOK V3」に書いてある。IIBAの前理事でKBマネジメントの清水氏から教えていただいたことなので間違いない。世界では、この仕事を「ビジネスアナリシス」といい、この仕事を専門に行うプロが「BA」という職種だと言っているのだ。それが当たり前なのだ。

AIの活用について、国際的なプロジェクトに参加し深く研究している、オリエント社の二宮氏からDBICのセミナーで日本企業のAI活用に関する課題をうかがった。ここでも、DXの課題と同様なことが多いとの指摘をいただいた。
二宮氏やそのお仲間のAIを専門に研究している方のところに来る相談の90%が、「AIで何かしたいので相談に乗ってほしい」という依頼だそうだ。まさに、「ニーズの定義」という「仕事」をしないで、AIを何とかしたい、というところから始まっている相談のようだ。これでは、もし何かできたとしても、非常に狭い範囲での利用に留まり、ビジネスのコアにAIを適用するという本質的な課題には全く届かないようだ。これは、担当している方の問題より、企業としてAIを活用するときの仕事の仕方を間違えているという問題と認識すべきだろう。

あらためて、BAという職種のお仕事を企業として明確に認識し、組織上にポジションとして設置するとともに、適切な人材を選び育成する動きを採るべきではないだろうか。

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