2022年12月、経産省が「DXスキル標準」を発表した際の文章だ。
「日本企業がDXを推進する人材を十分に確保できていない背景として、自社のDXの方向性を描くことや、自社にとって必要な人材を把握することの難しさに課題があるのではないかと考えられます。・・・」
ご指摘の通り、「DXの方向性を描く」人材を確保することが難しいのだ。
1.なぜ、DXの方向性を描くことが難しいのか
DXの方向性を描くためには、企業の本質的な問題を見つけることが必要だ。しかし、「問題を見つける」という仕事が実はかなり難しいのだ。
山口周氏は「ニュータイプの時代」で、偏差値に代表されるような「正解を出す能力」は既に価値がなく、誰も気づいていない問題を見出す能力に価値がある、と主張する。そして、問題を見つけることの難しさを書いている。
「問題解決の世界では、「問題」を「望ましい状態と現在の状況が一致していない状況」と定義します。したがって「望ましい状態」が定義できない場合、そもそも問題を明確に定義することもできないということになります。つまり、「ありたい姿」を明確に描くことができない主体には、問題を定義することができない、ということです。「問題が見つからない」という状況は、そもそも私たち自身が「世界はこうあるべきではないか」あるいは「人間はこうであるべきではないか」ということを考える構想力の衰えが招いている、ということなのです。」
大企業で働く方々を見ていると、目の前の仕事をこなすことで精いっぱいという状況で、「あるべき姿」など考えたこともないという感じだ。だから、問題を見る視点が「自分の部門の短期的問題」という狭さになっている。これでは、部長というクラスになっても、会社全体が抱える大きな問題を見通す余裕など全くない状態だ。
また、DX推進室を設置し、高いレベルの人を配置したとしても、会社全体の問題を構想する能力や経験は不足している。故に、DXの方向性を描くことが難しいというのが多くの企業の現状だろう。
「スキル標準」などで定義しているスキルは、方向性が定まってからの解決策を企画する能力としては重要だが、構想力の育成にはつながらない。
2.そうは言っても、現場の問題を掘り起こしていけばいいのでは
「現場」が大事とか、「現地・現物」に戻る、とか言われるように、現場の問題を取り上げていけばいいのではないか、という議論もある。
私はこう考える。
3.当社のパーパスをありたい姿にすればどうだろう
「ありたい姿」を具体的にイメージできるほどの解像度の高いパーパスが日本企業にあるだろうか。 抽象度が高すぎて、現状とのギャップを考えることができるほどの解像度がないのが現状。
4.では、「本質的な問題」をどのようにして見つければいいのだろうか
そのヒントは、"innovation"の語源にある。"innovation" は、in(なかに)とnova(新しくする)とが結びついてできている言葉だ。つまり、イノベーションとは、自らの内面、すなわち、ものの見方だとか認識だとか考え方だとか生き方などを改めることなのだ。会社の問題を見るのではなく、自分が生きている意味を問い直したり、自分の命の使いどころを深く問い直してみることから始めなければ、「ありたい姿」など出てこない、ということがポイントなのだ。そこに多くの企業が気がついていない。1月9日の朝日新聞朝刊に山口周氏が「美意識」が必要だと書いている。まさに、自分の内面を磨くしかないのだ。
渋沢栄一が「論語と算盤」の両立を唱え、「論語あっての算盤」だと主張しているが、まさに相通じるところを感じる。論語を学ぶことで、自分の心と向き合っていくのだろう。 リスキリング政策では、「問題を見つける」人材の育成は難しい。
参考
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