【横塚裕志コラム】売上ドリブン から ミッションドリブンへの 大転換

1.二人の主張の底流にあるもの

企業が「売上げ目標」をエンジンにして活動することに限界が来ているのではないかと、二人は違う角度から主張する。二人とは、クリスチャン・ベイソン氏とマイケル・ウェイド教授だ。私の前回のコラムでは、DXの基本戦略は「顧客価値ドリブンへの大転換」だというウェイド教授の主張を書いた。今回は、クリスチャン・ベイソン氏が主張する「ミッションドリブン」への大転換を書く。
二人は、2月6、7日のDBICセミナーへの招聘により初めて顔を合わせた。ウェイド教授は「DX戦略」を語り、ベイソン氏は「社会課題をデザインで解決する」を語るのだが、その底には、売上至上主義の企業行動への強烈な警鐘が流れている。

2.ベイソン氏が主張する「ミッションドリブン」とは何か

「企業はこれまで、製品・サービスを提供することで存在意義を果たしてきた。しかし、その結果、SDGsに列挙されている大きな問題を引き起こしてきた。その代表格が地球温暖化で、世界各地に今までにない悲惨な自然災害をもたらしている。だから、それらの問題を起こした張本人である企業が、その解決の責任を負っているのだ。企業倫理が今大きく叫ばれているのは、企業が「正しく」活動できていないことへの問題提起だ。今までの売上主義を改めて、社会問題の解決をミッションとして明確に打ち出し、それを駆動軸にして活動すべきではないか。」というものだ。

この「ミッションドリブン」は、問題解決を単にスローガンとして掲げるというレベルではなく、解決そのものをKPIとして具体的に活動することを意味している。
彼が例示したのは、デンマークの「Orsted」という電力会社だ。それまで90%を火力で発電してきたが、地球温暖化の解決をミッションとして決め再生可能エネルギーに全面的に変革するべく活動している。そして驚くべきは、再エネの研究などで得た知的財産権を他の会社にも公開して、企業競争よりも再エネの拡大を優先して取り組む姿勢を見せているところだ。まさに、ミッションドリブンでの企業行動をとっている。

3.大転換するためのヒント

  1. ASSUMPTION(思い込み)からのUNLOCK
    「経営目標から「売上」を外すなんて、馬鹿なことを言ってはいけない。「売上」目標をなくしたら社員が皆さぼってしまう。そんなきれいごとでビジネスができるほど世の中甘くない。」と経営者は言うのかもしれない。 しかし、それは「思い込み」で、実際は違うかもしれないというのがベイソン氏の主張だ。「ヒトは怠慢で管理しないと怠ける」とか「上司は部下より優秀でいい判断をする」という「思い込み」は果たして正しいか、という問題提起だ。 「社員は善人で怠けない。責任感が強く、ミッション達成に向けて創造性を発揮する。その結果、売り上げも伸びる。」と考えてみてはどうか、と。私はこの説に賛成だ。
    昭和の売上至上主義の「常識」や「思い込み」が日本企業の経営層にまだ残っており、そのあおりで品質不正などがまだ起きている。
  2. TIMEを長期的にとらえる
    ベイソン氏は、経営者にSFを読むことを勧める。「未来を具現化する」という考え方を採ってはどうかと。社会問題の解決は複雑で難しい要素が多い。故に、10年、20年という長期的な視点でとらえることが重要だと。長期的に、本質的な解決を構想し実行すべきと。
    私たちは、米国流の短期での成果を求める経営スタイルに踊らされてきているように思う。例えば、大学や民間の研究をも短期的な成果で評価するようになり、本質的な取り組みが薄れ、もうノーベル賞は難しいという危機感も出ているようだ。
    また、一般企業での給与評価に1年間の成果を反映するようなMBO制度が多く導入されており、短期で実行可能な薄っぺらい行動を推進する状態になっている。
    加えて、米国流のガバナンスとかリスク管理が過度に伝えられ、現場ではマイクロマネジメントが横行し、結果、委縮した覇気のない雰囲気が日本企業に蔓延しているように感じることもある。

4.二人から言われるまでもなく

私はこう思う。二人から言われるまでもなく、昭和の経営から大きく転換すべきタイミングなのだ。それは、多くの若い世代も感じている。売上至上主義の問題など20年前から議論されてきた。若い人たちの方がより勉強して気づいている。だから入社して、「俺の背中を見て学べ」とか「一致団結」とか言われたら、吐き気がしてくるらしい。そしてすぐに、その会社に見切りをつけてやめてしまう。

昭和の成功体験を捨てて、どん欲に21世紀の経営を学ぶ必要があると思う。そして、実行あるのみ。恥ずかしいけど、若い人たちの方が学んでいると正直に認めて、若い人の意見を半分以上は採用してみてはどうだろうか。 

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