【横塚裕志コラム】ビジネスアナリストのプロ中のプロに聞きました~プロ人材シリーズ④

日本で最高クラスのビジネスアナリスト(BA)だと私が尊敬しているLTS社の山本政樹執行役員に、BAのグローバルの状況や日本に定着していない理由、BAの業務、BAの育成など、多くのことを教えていただきました。

1.BAの誕生経緯

  • 1980年代頃から企業にIT化の波が押し寄せたが、事業・業務の要求が不完全なために8割のプロジェクトが失敗(品質・コスト・納期に何等かの問題を抱えたプロジェクト)に終わると報告された。
  • その結果、ソフトウェアへの要求を明確にする重要性が認識され、要求分析(要求管理・要求工学)という研究分野が確立された。
  • その後、2000年代には要求分析に業務分析(ビジネスアナリシス)という呼称が新たに定着した。 その後ビジネスアナリシスは、システム開発に限らずさまざまな業務分析を必要とする取り組みのノウハウが融合する中で、日々進化している。

2.グローバルでのBAの状況

  • 世界160以上の国と地域で「ビジネスアナリスト(BA)」という職業の存在が確認されている。北米(米国、カナダ)をはじめ、イギリス、ドイツ、北欧などでの認知が高い。インドや南アフリカなど、IT産業が盛んな地域でも認知が高まっている。
  • 世界のBAの総数は100万人~200万人以上と推測される。
  • 特に北米では、ビジネスアナリストが一般的な職業として知られており、他業種からの ビジネスアナリストにキャリアチェンジする例もある。(例:小学校の教師からの転職)
  • 女性のビジネスアナリストも数多く活躍しており、年齢層もさまざま(特に北米では、むしろ女性がマジョリティ)。
  • なお日本ではビジネスアナリストが担うべき役割は職種として固定されていないことが多い。ケースによってユーザー、プロジェクトマネージャー、コンサルタント、エンジニアなどさまざまなケースがあって、方法論の適用も限定的である。

3.日本ではビジネスアナリストの認知が高くないのはなぜか?

■ "失われた20年間"の投資余力不足

  • 業務分析関連の方法論はITの浸透と共に進化し定着した
  • 日本は1990年~2010年の間、不況下にあった
  • 日本企業はITの導入をベンダーに頼り、自社でIT導入を推進する体制を整えてこなかった

■ "強い現場"の神話

  • 管理職と現場が一体になって業務を"カイゼン"する文化(世界的にはむしろレア)
    (終身雇用による心理的安全性と、高い能力・意欲の合わせ技)
  • しかし、デジタル化が進んだ現在の業務の構造は現場でもわからないし、そもそも現場の最適=全体最適ではない

■ 形式知、経験への認識の違い

  • 経験を重視する日本、形式知化し再現性を重視する欧米
  • "コミュニケーション"を専門性として認知していない

4.BAが「変革(DX)」を実行できる唯一の存在

(1)DXが進まない理由

  • 誰が企業ビジョンを提示し、全体最適で変革に導くのか。
  • 組織サイロを超えて、大きな変革の取り組みを組成できるのは、本来であれば経営や上級管理職。しかし、この役割は現場の情報と肌感覚が不足気味(認知バイアスも強くなる)。もちろん現場は全体を見渡すことはできない。
  • これらの人の足りない視点・能力・時間を誰かが助け、合意形成を支援する必要がある。

(2)BAが変革専門人材である理由

  • 専門性を駆使して情報を整理・構造化し、わかりやすく伝達できる
  • 部門の利害をこえて、組織横断課題を発見できる
  • 企業構造に関する情報・ノウハウを蓄積・管理できる
  • 情報の収集と問題発見に稼働の多くを投入できる

(3)DXを実行するときの各部門の役割

【経営】

  • 変革人材からあがる情報をもとに、自社の在り様を考え、変革全体の方向性を指し示し、意思決定の基準を作る。
  • それぞれの部門の役割、目標を調整し、部門独力で解決不可能な問題に対しての枠組みを提供する。
  • 活動に必要なコスト、労力を認識し、確保する。

【変革人材(ビジネスアナリスト)】

  • プロセス構造を管理し、全体最適の立場からあるべき姿を提案する
  • 経営に現場の情報をあげる
  • 経営と現場の橋渡し役になる。
  • 業務分析やITのノウハウを提供して変革活動を支える。
  • 取り組みに必要となるまとまった稼働を提供する。

【各部門のリーダー】

  • 自部門の在り様を考え、現場なりのあるべき姿を提案する。
  • 経営や変革人材からの提案を受けて、変革に前向きに関与する
  • 現場業務の専門家として、業務特有の専門知識、知見等を提供する。
  • 現場で推進可能な改善・変革を着実に進める。

5.BAの育成

  • スキルの根幹がコミュニケーションであるため、座学だけでスキルを身に着けることが難しい。
    (ビジネスモデリングなどのテクニックは座学で習得可能なものもあるが、それだけで役割を果たすことができない)
  • 変革の経験の蓄積と、指導するコーチの存在が欠かせない。
  • 方法論・ツール・資格などはあくまでも役割強化のツールであって、育成の根幹ではない。
  • 一人前のBAになるには、6年間のBA経験が必要。全社のDXを企画・実行するには10年以上の経験が必要。

6.BA定着のための日本企業の課題

  • ITの企画~要件定義がBAの発祥であることは間違いない。現実的にはその前の「組織問題をどう定義し、変革アプローチを組成するか」という段階に大きな問題がある。BAが向き合うのはむしろこちら側。"デジタル"よりも"トランスフォーメーション"。
  • 日本は変革の議論が方法論やツールによりすぎ?根幹は"問題は何?"という問い。そして、"組織での泳ぎ方"。
    (問題が何か、原因は何かを考えずに、"何をやるか"が先行する)
  • 変革は情報量の勝負。社内の情報(経営、各部門の状況、システム、人の意識・・・)、社外の情報(競合他社・業界動向、ソリューション動向・・・)、それらを集約して統合管理する体制が必要。
  • "経営"と"現場"という二元論の限界。"変革"と"オペレーション"は根本的に違う。孤立した変革担当組織(例:デジタル推進室)があまりに多い。ビジネスアナリストを論ずるだけでなく "変革人材"の在り方の議論を。

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