【横塚裕志コラム】日本は現場にベテランがいる 世界は本社にプロがいる ~プロ人材シリーズ⑥

なぜ、日本で「プロ人材育成」の議論が起きないのか不思議に思っていたが、その謎がはっきりしてきた。「ビジネス活動の哲学」そのものが、日本と世界では大きく異なっていることに起因しているようだ。日本は、「強い現場に依存する」哲学で、各現場がカイゼンを繰り返すことで成長するとする考え方。世界は、本社が業務プロセスから組織分担までガバナンスし、全体最適を目指すとする考え方だ。従って、日本は「現場の人が頑張る」以外の選択肢を考えたことがない。弊社の仕事の経験が何より大事という感覚だろう。さすがにITとなると経験がないのでそれだけは外部に委託するが、それ以外は「社員が何とかするはず」という考え方だ。故に、何か問題が起きれば、責任はすべて現場だということになる。
世界は、現場の業務をデザインし、マネージすることを「本社」の責任としているので、本社に各分野のプロ人材が集結し、力を発揮している。問題があれば、それは本社=経営の責任となる。
以上のような「哲学」の違いを少し具体的なシーンで比較してみようと思う。その「哲学」の違いが、マネジメントや人材、デジタルなどビジネス全般に大きく影響しているようにもみえる。このままでいいのかを考えてみたい。

1.日本と世界のビジネス哲学の違い

  • 現場の業務の段取り
     日本:現場のベテランが仕切る
     世界:本社のプロが標準をデザインして全拠点同じにする
  • 現場の業務の管理
     日本:現場の長が大事にしたい成果や品質指標に基づき、問題を見つけて改善する
     世界:全社標準の成果・品質指標が可視化され、マネジメントサイクルを回す
  • 現場の業務改善
     日本:現場の創意工夫
     世界:本社のプロが全拠点の実態を可視化し、マネジメントサイクルを回す
  • システム化の企画
     日本:多々ある現場のプロセスの最大公約数でシステム化せざるを得ない
     世界:ERPをベースに全社標準をさらに改善し、導入する
  • システム化の目的
     日本:現場での利便性向上・生産性向上
     世界:全体最適なプロセス実現、成果・品質のマネジメントの可視化
  • 現場のベテランが退職したら
     日本:可視化されていない、文書化されていないから、混乱が続く
     世界:社員がいつ交代しても継続できる体制をつくる
  • 商品・サービスを大きく変更しようとしたとき
     日本:各拠点のベテランが新商品を学び、プロセスに落とし込む
     世界:本社のプロが新商品のプロセスをデザインし、デジタル化する

以上、いくつかの例を想定して両者を比較してみた。 つまり、「全社の業務プロセスを標準にデザイン」し、「そのリアルな実態を可視化してマネジメントするスキームを導入」し、それを「デジタル化」するのが世界で、プロ人材・可視化マネジメント・デジタル化の3つがセットで動いている。

日本で多く見られるのは、デジタルだけ無理やり入れるが他の二つがそろっていないのでほとんど効果が出ないという例だろう。その典型なのは、マイナンバーカードのデジタル投資だろう。開発済みの39%の業務システムが自治体で利用されていないという報道に驚かされる。全自治体をガバナンスする機能が欠落しているうえに、プロ人材がいないという状況だ。
また、プロ人材を育成しても、自分の部署だけの狭い範囲でしか役割が果たせないという例も多くみられる。現場はそれぞれの現場に任せるという哲学がそうしている。

2.このままでいいのか

日本だけの現場依存型のビジネス哲学は限界にきていると思う。これだけ激しく技術が進化し続け、また、お客様自体の価値観の変化も速い時代に、「うちの社員なら必ずやってくれる」と考えているのは、いささか昭和ボケしていると言われてもおかしくない。毎日同じサービスをしているうちはそれでも回っているが、世界レベルの経営をしようと思うのなら、ビジネス哲学を180度転換し、現場依存型から本社リード型に変革すべき時ではないだろうか。
世界レベルの高度なプロ人材を育成・採用し、経営自体のスキームを本社リード型の体制に変革し、アジリティ度の高い意思決定をしていく姿を目指すべきと思うが、いかがだろうか。

「プロ人材」を追いかけてきたら、どうも経営そのものの問題にたどり着いているようだ。人材も経営もデジタルもセットで世界レベルへの転進が必要な時代になっていると認識すべきと考える。CHROとCIO(CDO)がコラボして、経営哲学の変革に取り組んではいかがだろうか。

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