世界の「能力開発」をリードするアメリカの非営利団体ATD(Association for Talent Development)のグローバル責任者であるDr. Wei WangがDBICのために東京に来てくれました。ATDは1944年に設立され80年の歴史をもつ世界最大の能力開発に関する協会で、世界120か所に支部を持ちグローバルに展開をしている。 彼女の講演内容はDBICからのレポートに譲るとして、彼女の大きなメッセージは、「医師はプロ、弁護士もプロ、能力開発者はプロでなくていいのか」ということ。このメッセージについて私が考えたことを書こうと思う。
ATDは、「能力開発をするプロ人材」を開発・育成する団体だ。そのATDの能力開発の考え方が「TDBOK」という知識体系として確立されている。この体系に沿って、トレーニングプログラムが構成されており、また、能力開発担当プロが持つべき23のcapabilityが定義されている。 世界では、プロ人材の種類に合わせて「・・BOK」という知識体系が確立されている。日本でなじみがあるのは「PMBOK」というプロジェクトマネジメントの知識体系だ。
生成AIに聞いた結果を以下に羅列する。
医療知識体系 (MBOK)、看護知識体系 (NBOK)、製造業知識体系 (MfgBOK) 情報技術知識体系 (ITBOK)、教育知識体系 (EdBOK)、 マーケティング知識体系 (MkBOK)、会計知識体系 (AcctBOK) 人事管理知識体系 (HRBOK)、サプライチェーン管理知識体系 (SCMBOK)1 土木工学知識体系 (CEBOK)、共通知識体系 (CBK)1 ソフトウエア工学知識体系 (SWEBOK)、プロジェクト管理知識体系 (PMBOK)1 地理分野のためのGISTBoK (GISTBoK) エンタープライズ・アーキテクチャ知識体系 (EABOK) 事業分析知識体系 (BABOK)、データ管理知識体系 (DMBOK) モデリングとシミュレーション知識体系 (M&S BoK, MSBOK) サイバー犯罪捜査知識体系 (CIBOK)、セキュリティ知識体系 (SecBoK) ソフトウェア品質知識体系ガイド (SQuBOK)
「BOK」は、マーケティングもあり、セールスもあり、会計もあり、サプライチェーンもあり、調達もあり、ビジネスプロセスもあり、世界では、多くのプロ人材が存在しているようだ。そして、そのプロ人材を育成・開発するために、それぞれ「・・BOK」が開発されている。そのうちの一つが「TDBOK」で「能力開発」のプロ人材のためのものだ。
生成AIにMkBOKを聞いてみた。
「マーケティング知識体系」(MkBOK)は、マーケティングの専門家が参照するための概念、用語、活動などを体系的にまとめた知識の集合体です。MkBOKは、マーケティングの理論、戦略、実践方法、分析ツール、ケーススタディなどを含み、マーケティングのプロフェッショナルが業務で必要とする知識やスキルを網羅しています。 具体的には、以下のような内容が含まれることが一般的です:
BOKの数とプロフェッショナル人材の種類の多さを初めて知り驚いた。世界では、会社の仕事のほとんどをプロ人材が担当しているではないか。そして、そのプロ人材の能力開発は、BOKに照らして不足しているところを学び、向上させていくという仕組みになっている。それを本人と企業が話し合いながら実行しているように推測される。ゼネラリスト中心の日本の人材育成、例えば、10年目研修とか管理職研修とか、という考え方とは根本的に違うように見える。 これでは、世界と日本と人材の質に大きな差が出てしまうのは必至だろう。IMDの世界人材ランキングで日本が43位(64か国中)と低迷し、一人当たりGDPという生産性指標がOECDで最下位なのも、原点はこの人材の問題なのだろうと推測できる。ゼネラリストが少し研修するぐらいでは、世界のプロには勝てないのではないだろうか。 世界は、このBOKを常に磨き続け、バージョンを上げ、効果的な能力開発を続けている。そして、トレーニング自体を科学し、効果的な学習方法を「インストラクショナル デザイン」し、実践している。
ここまで書いてきたことは、私自身、現役のときにまったく知らずにいた。恥ずかしい限りだが、この世界との違いを知ると、日本企業は「人材育成」のトランスフォーメーションを考えるべきと言いたくなる。 「ゼネラリストが4年で転勤する」という日本企業独特の人事制度のままでいいのか。世界標準のプロ人材育成をどのように日本企業に取り込むのか。自分のキャリアは自分で決める世界標準と社員のキャリアを会社が決めていく日本の制度、大きな差があるが、どのように日本企業を改革していけばいいのか。課題は多い。人事制度全体をデザインし直す大掛かりな変革になるだろう。「リスキル」と言ってみたり、「JOB型雇用」と言ってみたり、一部の手直しだけでは、あまり効果が出ないのではないだろうか。 「人的資本」を経営のキーに据えて取り組むのなら、この世界との違いをしっかり認知したうえで、「能力開発」と「学び」の大改革に挑戦するべきだろう。
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