【横塚裕志コラム】「顧客起点デジタル」と「企業論理デジタル」 その⑤ ~ 第3者のビジネスアナリスト(BA)~

前回のコラムでは、デジタルメニューをテーマにして、それが「顧客起点デジタル」になっているかを考えてみた。結論は、その企業が実現したい顧客の価値を定義したうえで、その価値を実行するシステムになっていれば、「顧客起点デジタル」になるし、違う方向になっていると「企業論理デジタル」になってしまう、ということ。つまり、ゆっくりメニュー見ながらスタッフの方と会話しながら食事を楽しむ、ということを価値とするお店なら、デジタルメニューはやめた方がいい、という結論だった。
加えて、デジタルメニューをどのように導入するかを考える際、お店の経営者とSEだけでは広い視野での検討ができないので、第3者であるビジネスアナリスト(BA)が両方の意見を聞きながらあるべきシステムを見定めることが重要だということもよく分かった。

1.顧客の視点が「盲点」となるデジタル化ケース

デジタルメニューは、従業員の採用が難しいという状況だけで導入を進めてしまうと、逆にそのお店の価値を失いかねない。デジタルメニューを顧客がどのように感じるのかを考えることを忘れがちになる。これと同様に、顧客の視点が「盲点」となるデジタル化ケースが多い。その盲点を以下に挙げてみる。

  1. 紙プロセスをそのままデジタル化するから顧客起点が盲点となる
    • 紙をそのまんまデジタルに変えるデジタル化のケースは、顧客にとって何も変わらないと考えてしまう
    • しかし、専門用語や複雑な記入要領などは、デジタルの方が顧客のストレスになる
  2. 顧客との接点は「事務処理」が多く、顧客起点に気がまわらない
    • 「事務処理」(SoR)なので、現行を踏襲する傾向が強くなる
    • 「事務処理」なので、現行ルールに問題が多いとは気づきにくい
    • 「事務処理」なので、現行ルールは関係者が多く変更しにくい
    • 「事務処理」なので、付加価値を付けようという発想にならない
    • 「事務処理」なので、時間もコストもかけにくい
    • 「事務処理」なので、顧客のストレスに気がつかない
  3. 企画するビジネス部門に「顧客起点」の能力が不足している
    • 「デジタル化」は、現行プロセスの紙を電子化することだと誤解している
    • 顧客とのオンライン化は、社内のオンラインの延長だと誤解している
    • デジタル化すれば、自然と利便性が上がるものだと誤解している
    • 普段使っている専門用語が難しいものだと露とも思わない
    • 「デジタル化」は、どういう考え方であるべきかを学んだことがない
    • 「デジタル化」が、競争力を上げる武器だということを学んだことがない
  4. 受注するIT部門(ベンダー)に「顧客起点」は期待できない
    • SEは、ビジネス部門が作成する要件記述書に従って開発する
    • SEの役割はQCDにあり、ビジネス部門に問題を提起する役割はない
    • SEが画面や操作性を設計するが、専門用語までは踏み込めない
    • SEが担当するのは一部のシステムであり、全体像の情報はない
    • SEは多忙であり、CXの分野まで学ぶ時間はない
    • SEに与えられる時間は短く、操作性を深く広く検討している時間はない

2.「顧客起点」は、3つの役割で紡ぐもの

発注するビジネス部門と、受注するIT部門という二つの役割だけでは、お互いに盲点があって、「顧客起点デジタル」が実現できない構造になっていることに気がつかなくてはならない。それぞれがさぼっているわけではなく、構造上、もう一つの第3者の機能が不足しているのだ。それがビジネスアナリスト(BA)の役割だ。

BAは、「旅行代理店」のような存在と考えてみるのはいかがだろうか。旅行をするのはお客様で、旅行代理店はその支援するという構図だ。旅行をしたい人は、必ずしも旅慣れているわけではないので、何処に行くといいのか、切符購入はどうやればいいのか、現地で注意すべきことは何か等を、誰かに教えてもらいたいと思っている。それが、BAだ。ビジネス部門といいながらも、顧客起点にするにはどうしたらいいかを具体的に学んでいるわけでもなく、BAに教えてもらいながら意思決定していくプロセスが必要だ。

デジタル化は、3つの役割が協働することで初めて、効果がある内容につくり上げることができるのだ。ビジネス・BA・ITの3つの役割が必須なのだ。日本は、なぜか、ビジネス・ITの2つの役割しか認識していないから、効果があるものができていない。なんとしても、この3点セットを日本に定着させないといけない。欧米では、200万人のBAがいるのだから。

他のDBIC活動

他のDBICコラム

他のDBICケーススタディ

一覧へ戻る

一覧へ戻る

一覧へ戻る

このお知らせをシェアする