前回までの3回にわたって、日本企業が「顧客起点デジタル」になっていない理由を調べ、原因などを考えてきた。今回は、具体的な事例を基に、「顧客起点デジタル」とは何かを考えてみたい。
1. 食堂などでメニューと注文がタブレット操作になっている
このデジタルメニューが「顧客起点デジタル」かどうかを考えてみたい。私には、そう思えない。使いづらいし、注文が通ったのかわからないし、ちょっとスタッフに聞いてみたいこともあるので、タブレットの店はあまり好きではない。
2. デジタルメニューについて冷静にメリデメを考えてみる
(1) メリット
- 従業員の削減:デジタルメニューを使うことで、顧客が自分でオーダーを入力できるため、ウェイターやウェイトレスの負担が軽減され、人数を減らせる可能性がある。ただ、一人分削減できるほど効果が出るかどうかは疑問で、実際に削減できているのか調べてみたい。
- 更新のスピード:メニューの変更が簡単にでき、季節限定の料理や在庫状況に応じたアイテムを即座に反映できる。ただし、お客が4人くらいになるとタブレット1台では時間がかかるので紙メニューも併行して置くと、その効果は期待できない。
- 視覚的な魅力:写真や動画を使って料理を紹介できるため、顧客の食欲を引き立てやすい。一方で、開発コストや能力に限界があり、紙メニューを単にデジタル化したものが多く、デジタルの能力が生かし切れていない事例も多い。
- 注文のスピード:メニューの内容に慣れていると、スタッフを待たずに即座に注文ができる。
- 言語の多様化:多言語対応が可能。
- データ分析:どのメニューが人気か、どの時間帯に注文が多いかなどのデータを収集し、経営戦略に役立てることができる。
(2) デメリット
- 操作性:タブレットの操作が直感的でない場合、特に高齢者や技術に不慣れな人にとってはストレスになることがある。
- 人間味の欠如:スタッフとの対話や温かみが薄れてしまうと感じる人がいる。
- 個別対応の難しさ:特にアレルギーや特別なリクエストに対する柔軟性が欠けることがある。
- 初期投資:ソフトの開発やタブレット機器などの初期投資が必要。
3. 「顧客起点デジタル」になっているか
- 考え方
導入の「目的」は、従業員の削減、あるいは、従業員の採用が難しい、ということにあるので、「企業論理デジタル」の典型だ。デジタルメニューの使い勝手が悪くて顧客にストレスをかけたり、スタッフに相談したくてもできなくて顧客を困らせるような事態も想定される。一方、忙しい人が急いで注文できるとか、人との会話を避けたい方にはメリットがあり、顧客の価値を生んでいるともいえる。
- 「顧客起点デジタル」かどうか
その店舗が、自分のお店の価値を「食事を楽しむ時間を提供する」と定義するのなら、デジタル化はせずにスタッフで対応する方がいい。価値を「短時間で食事ができる」と定義するのなら、デジタルメニューを導入するのがいいと考えることができる。
つまり、デジタル化は、その企業が顧客に対してどのような価値を提供しようとしているのか、を踏まえて判断していくべきものということだろう。
- 経営者が判断できるか
経営者だけでその判断は難しいし、SEだけでも難しい。その間に入って、提供したい価値は何か、を対話しながら、どんなデジタルがいいかを相談していくプロセスと、その間に入る人材が必要だと思う。その人材が、BAに違いない。