日本企業がサービスするアプリはどうも使いにくい。多くの人がそう思っている。外国から来るゲストも口をそろえてそう言う。どこに原因があるのだろうか。 自分がIT部門で働いてきた経験から考えてみると、スキルがないとか勉強不足とかでは片づけられない問題にぶち当たる。それは、デジタル化プロセスに構造上の4つの盲点があるのだ。盲点だけに、当事者では気がつかない問題があるのだ。
こういう状態のままでは、到底DXなど開発できるわけがない。それどころか、既にビジネスが競争力を失いつつある事態になっている可能性が高い。他社への切り替えが難しい業態では実際には危機を感じることはないかもしれないが、顧客はストレスを抱えていることはまちがない。しかし、なぜかメディアも学術界も、この問題を指摘する人は少ない。実は隠れた大問題だと思うのだが。 そこで、その隠れた4つの盲点を明らかにし、その解決策を提案したい。 (2024年12月5日、IT協会「デジタル業務改革」での講演をまとめたもの)
切符・指定席の購入、ホテルの予約、お取り寄せの通信販売、保険証券、電気料金表、カード利用明細などのWEB化が進み、企業と顧客の間のデジタル化が進んだ。しかし、非常に問題が多い。
デジタル化に実は大きな盲点が潜んでいることに気がつかなくてはならない
盲点1.紙プロセスをそのままデジタル化すると潜んでいた問題が顕在化する 「紙」+「窓口」の従来の手続きは、難しいルールを人の説明で解消していたが、オンラインでは、切符のルールの難しさや申請のルールがお客様のストレスとなる。操作性という単純な問題ではなく、企業側がこれまで持っているルールが難しいということが顕在化する。「窓口」の対応は実に柔軟で、購入手続きが実は相談相手になっている。その実態の価値を分析しきれず、盲点となり、オンラインでその価値が再現できていない。 盲点2.顧客との接点を「事務処理」と考え、顧客起点に気がまわらない 顧客の接点ではあるものの、「事務処理」なので、そもそも、顧客起点という発想になっていない。単に、現行ルールを踏襲する傾向が強くなる。現行ルールは関係者が多く変更しにくい。「事務処理」なので、付加価値を付けようという発想にならない。時間もコストもかけにくい。「事務処理」なので、顧客のストレスに気がつかないという盲点になっている。 盲点3.企画するビジネス部門に「顧客起点」のデジタル化の意義が見えていない。 「デジタル化」は、現行プロセスの紙を電子化することだと誤解している。顧客とのオンライン化は、社内のオンラインの延長だと誤解している。デジタル化すれば、自然と利便性が上がるものだと誤解している。普段使っている専門用語が難しいものだと露とも思わない。本来のデジタル化の意義が見えない(盲点)ままに、デジタル化を進めている。なぜなら、「デジタル化」は、どういう考え方であるべきかを学んだことがない。「デジタル化」が、競争力を上げる武器だということを学んだことがない。 盲点4.受注するIT部門(ベンダー)には「顧客起点」から考える役割は無い SEは、ビジネス部門が作成する要件記述書に従って開発することが役割。SEの役割はQCDにあり、ビジネス部門に問題を提起する役割はない。SEは画面や操作性を設計するが、専門用語までは踏み込めない。SEに与えられる時間は短く、CXを考える時間はない これが現実なので、今使われている顧客接点系のデジタルサービスは、何年かかっても改善されないだろう。
このような盲点を放置したままのデジタル化は、サービスの相対的な質を低下させるリスクとなる。例えば、韓国のKakaoBankは2016年に設立され、スマホでの簡単な口座開設やローンの実行を提供するなどで顧客数を急増させている。こうした企業に対抗するためには、「顧客起点デジタル」への取組みが求められる。
「顧客起点デジタル」には、以下の3点セットが必要と考える。
顧客本位とかビジョンを掲げるだけでは実践が伴わない。 世界では標準となっている専門の体制を学ぶべきではないだろうか。
「顧客起点デジタル」への変革を実行できるのは経営者しかない。「DXをやれ」と言っている場合ではない。BAを育成して、基本的なデジタル能力のところから会社を変えていく取り組みを進めるような会社が1つでも現れることを願っている。
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