【横塚裕志コラム】第5次オンライン化計画を構想するときが来ている

どの産業でも、企業のIT化の歴史は同じ韻を踏んで推移しているように思える。第1次オンライン化が1970年代に始まり、80年代に第2次、90年代に第3次、2000年代に第4次、と産業や企業によって多少の差はあるものの、IT活用が段階的に進化してきたように思う。第4次から少し時間が空いたが、ついに第5次オンライン化の時代が来ているとの感覚を持つ。私なりの第5次の兆しを書いてみようと思う。

1. 歴史の必然

東京海上日動火災のオンライン化の歴史を、オンラインの対象と業務範囲に絞ってその傾向を見てみる。
第1次は、自動車保険に限定し、契約・保険金支払い事務に限定してスタート。第2次は、全商品に広げ、すべての拠点をオンライン化した。第3次は、保険事務以外の業務に拡大し、オンラインも販売チャネルという外部委託企業へと広げた。
第4次は、業務品質に視点を広げ、品質の拠点である販売チャネルの業務に踏み込んだオンライン化へと進めた。

この歴史を未来に延長すれば、第5次の方向性は明らかだ。次は、顧客との本格的なネットワーク化に違いない。第4次は、販売チャネルに焦点を当てたので、販売チャネルを主役にした業務内容にした。変革のポイントは、保険会社から販売チャネルにオンラインサービスを提供するというスタンスを180度変えて、販売チャネルが使いたいオンラインシステムを提供させていただく、という姿勢だ。従って、第5次は、顧客を主役にしたオンライン化の時代が来るということだろう。つまり、保険会社のサービスを顧客に提供するという形態ではなく、顧客がオンラインで生活をする中の一つのアプリとして保険会社のサービスが存在する、ということになることが想像される。

2. 第5次のパラダイムシフト

第5次は「顧客」とのネットワーク化となる。そしてその舞台では、いままでの「企業から商品・サービスを提供し顧客側が取捨選択する」というパラダイムから、180度逆転して、「顧客が行動というストーリーの中で意味のある商品・サービスを選んでいく」というパラダイムに変わっていくのではないかと思われる。
なぜなら、それが人間本来の姿だということでもあり、それを実現できる技術が手に入るようになったということだ。そうなることを想像させるいくつかの理由がある。

  1. <理由1>「生成AIと同じような変化」が起きる
    今までは、人間が自分のやりたいことに沿って一つずつグーグルで検索してきたが、生成AIに日本語で趣旨を頼めば、様々な検索など一連の作業を全部やってくれるのだ。このスキームで個人がAIを活用することが一般的になると、顧客の生活スタイルは大きく変わることになるだろう。例えば、「2泊3日で妻と旅行したい」という趣旨をプラットフォーマーに言えば、鉄道やレンタカー(自動運転)・保険、ホテル、行程などを全部準備していただけるようになるのではないか。きっとAIエージェントがそれぞれ調べてフィットしたものを候補として挙げてくれるのだろう。
  2. <理由2>中国のニューリテールの方向性
    IMDが調査した「ニューリテール進化論」、あるいは上海で生活する藤井保文氏の「アフターデジタル2」などを読むと、新しいデジタル時代が見えてくる。
    決済プラットフォームの上に、生活総合プラットフォームをサービスする会社が出現し、そのプラットフォームの上で、市民は自分が意味があると思うことを自由に行動していく形態に進化している。その行動の中に購買が入ってくるので、企業の立ち位置として主従が逆転しているように見える。
    ヨーロッパなどのサステナブルへの強い傾向を加味すると、強い価値観を持つ生活総合プラットフォームがいくつも出現してくるかもしれない。例えば、製品はすべて修理できるものばかりを候補とするプラットフォームができるだろうし、障がい者に暖かい製品ばかりをそろえるプラットフォーム、子どもが睡眠障害にならない生活を目指すプラットフォームなど、市民の多様な価値観が多様なプラットフォームを生んでいくのかもしれない。

3. 顧客がイニシアチブをとるAI時代

顧客がAIをお供にして、あるプラットフォームの中で行動していくスタイルをとることを想定したときに、例えば、保険会社は商品・サービス、組織、販売チャネルなどをどのようにデザインし直せばいいのだろうか。
プラットフォームをどこの産業が制覇するのだろうか。
第5次オンライン計画はどのように構想すればいいのだろうか。
プラットフォームを獲りに行くのか、それとも、どこのプラットフォームからでもAIエージェントが探索しに来てくれる商品やそのAPIを造りまくるとするのか。

4. 誰が長期の見通しを考えることができるのだろうか

まずは、研究チームを作る必要があるだろう。どんな能力を持った人材を集めればいいのだろうか。少なくとも、誰も知らない世界へ勇気を持って踏み込んでいく意欲、グローバルにコミュニケーションできる言語力、デジタル技術の基本的な知見、など必須だろう。日本には情報がないから、海外での自由な行動を担保するふんだんな予算も必要だろう。
すでに危機感を持って取り掛かっている企業もあると思う。あえて「第5次」と書いたのは、会社を挙げて取り組む覚悟が必要という意味で書いた。激動の1年になる予感がする。

他のDBIC活動

他のDBICコラム

他のDBICケーススタディ

一覧へ戻る

一覧へ戻る

一覧へ戻る

このお知らせをシェアする