【横塚裕志コラム】日本の企業人・官僚が持つメンタル特性が改革の邪魔をしている

私たち企業人・官僚は、二つのメンタル特性があるように思う。

  1. 自分に与えられている仕事はきっちりこなしていくが、他部門や会社全体の課題などには関心を持たない。
  2. 自分自身が誠心誠意頑張っているという自負がある故に、他人から言われることには聞く耳がない。

この特性は、自分の担当範囲はしっかり仕事をするといういい面があるが、一方で、会社全体の改革とか、新しい考え方への挑戦、という観点では、結果的にはブレーキ役になり邪魔をしていることになっている可能性がある。自分も現役時代は同じ特性を持っていたので偉そうなことは言えないが、DBICから見ているとそう感じる。

例えば、こんなやり取りが多い。

  • 「イノベーションを起こすためのトレーニング・プログラムがあります」
    →「他にも似たような研修がいろいろあるので」
  • 「人材育成に関する世界レベルの専門家が来ます」
    →「人材育成は人事部がやっているので」
  • 「顧客視点に関わる新しい考え方を語る方が講演します」
    →「顧客視点でいつも行動しているので」

Ⅰ.改革のブレーキ役になっているかも

「自分はしっかりやっている」という感覚が、その人の成長と会社の発展を妨げている可能性がある。気になる点は次の通りだ。

  1. 会社全体としての課題を言わない
    他部門とか会社全体のことは自分の担当ではない、と明確に割り切るので、会社全体の課題を主張する人が存在しなくなる。従って、会社全体としての課題が議論されることがなくなる。
  2. 社内では評価されるから知らぬうちに唯我独尊になる
    社外から多くのことを学ぶ機会があっても、社内では評価されていると自負しているので、学ぶことやめてしまう。社外や海外から最新の情報を取り入れていく機会を失い、自分のレベルを過信する。
  3. 視野が狭いと内向きになる
    自分の担当範囲の中だけで意思決定をする癖がつくと、外部との関係もその業務範囲の中に限定され、視野が狭いままになる。結果、社内の他部門や公的な規制を悪者にしがちになり、自分たちが変革していこうとする発想にならない。

日本企業は押しなべて、以上のような状況になっていると感じている。自分の業務をしっかりこなすことは大事なことだが、そのことが別の大きな問題を発生させていることに気がつかなければならないのではないだろうか。
いわゆる「会社人間」のその生真面目さがかえって改革を邪魔している。特に、学生時代から優秀で偏差値の高い大学を出たような人が、陥りやすい傾向かもしれない。学校のテストという限定された範囲の中でいい点を取ることに慣れすぎたのかもしれない。

Ⅱ.実際に起きている問題

  • 自社のWEBサイトで商品を購入してみたけど、操作が煩雑で難解な言葉があり使いにくい経験をした。改善したほうがいいと思うけど、他部門の担当だし、指摘するのはやめておこう。
    →誰も言わないから改善しない
  • 自分は、部門の管理や人材の育成を高いレベルで実施していると自負していたが、海外企業での組織やマネジメントを見たとき、日本企業がガラパゴスになっていると気がついた。
    →ガラパゴス状態と気がつかない人がほとんど
  • 業務改革には「ビジネスアナリスト」というプロ人材を欧米では設置しているようだ。当社にも必要と思うが、プロ人材の制度は人事部担当だし、人事部に提案しに行くのは面倒だ。
    →新しい挑戦が始まらない
  • シンガポールに駐在していたが、シンガポールが「デザイン思考」を国として採用し、小学生から学んでいるという事実を知りませんでした。
    →外との関係を持たないから情報が入らない

Ⅲ.自分のことは棚に上げて2つのsuggestion

自分自身も「会社人間」で、「自分の仕事をきっちりやることが自分の使命」とか、「波風立てると昇進に差し障る」とか考えていたので、コメントする資格はないのだが、あえて、皆さんの成長のために2つのsuggestionを書く。

  1. 会社全体の構造的な課題を考える習慣が自分を成長させる
    自分の経験でも、2次オン・3次オンの担当部署で会社全体の構造改革を検討した時間は、非常に学ぶことが多かった。ビジネスプロセスという考え方に出会い、自分の主張を持つ契機になり、他部門の説得の難しさを体得したように思う。
    会社全体を考える機会を持った人は、視野が広いと感じることが多い。
  2. 豊田佐吉の「障子を開けてみよ 外は広いぞ」は至言
    謙虚に学ぶ姿勢が大事だ。リーダーになると自分がしっかりしているところを示さないといけないと考えるので、弱味を見せないようにしてしまうのもわかる。
    しかし、「外は広い」のだ。残念ながら日本は典型的なガラパゴス島なのだという認識を持って、自分を白紙の状態にして、がむしゃらに学ぶ体験が本人と会社のために必要だ。隣の韓国がデジタル分野でいかに進化しているかさえ、知らない人ばかりだ。

余計なお世話かもしれないが、少しでも参考にしていただけるとありがたい。

他のDBIC活動

他のDBICコラム

他のDBICケーススタディ

一覧へ戻る

一覧へ戻る

一覧へ戻る

このお知らせをシェアする