【横塚裕志コラム】デジタル化は 「構造改革を構想するプラットフォーム」

近頃、有力企業の社員削減のニュースが目につく。パナソニックHD:1万人、資生堂ジャパン:1,500人、オムロン:2,000人、ワコール:150人、リコー:2,000人、第一生命:1,000人などだ。日本においては、雇用に手を付けざるを得ないということは、かなり深刻な事態なんだろうと推測される。

一方、その原因となっている経営の問題に、少しでも「デジタル」が役割を発揮してきたのだろうか、と不安を覚える。真の経営課題とは別のところでデジタルが使われているとしたら、それは大変残念なことだし、デジタルの本領が生かされていないのはもったいない。

しかし、経営課題にデジタルが貢献できるかどうかというテーマは奥が深い。
デジタルは「ITツール」だと認識していると、現状プロセスの一部をデジタルに置き換える程度で留まり、収益の改善まではいかない。デジタルは「構造改革を構想するプラットフォーム」だと認識すれば、経営課題そのものに挑戦することができる。経営者やCIO、そして経営課題に取り組むビジネスのエースたちが、どちらのセンスでデジタルを認識しているかが大きな分かれ道になる。もちろん、デジタルだけで問題が解決することは少ないが、デジタルを活用するというレベルには意外と会社によって大きな差があるように思う。そこで、経営に貢献するスキームとして、デジタル化が構造改革を構想するプラットフォームだということを書くこととしたい。

1.デジタルが「構造改革を構想するプラットフォーム」という意味

私がこれを主張する意図は以下の通りだ。

  1. デジタルをなんとか経営改革に生かしたいと思うと、構造改革のテコにデジタルを使うことが一番だと考える
  2. 「構想するプラットフォーム」というのがミソで、デジタルという成果物が効果を持つのはその通りだが、それとは別に、デジタルを使ってどのように構造改革を進めるかを考えるプロセス自体に大きな意味があるということを言いたい

次に、あえて「デジタルを使って」とデジタルを強調する趣旨を説明する。

  1. デジタルを使う前提で構造改革を構想すると、ともすると曖昧で感情的になりやすい議論が、具体的で可視化された議論になりやすい
  2. 課題の全体を可視化すると、自社以外の顧客の顔やサプライチェーン・デリバリーチェーンのパートナーの顔が見えてきて、本質的な議論になりやすい
  3. デジタル化の議論をするときは、不思議と「本来うちが提供する価値って何だっけ」という青臭い議論がしやすくなる

2.「デジタルを使って構造改革する」意義

デジタルを使って構造改革を構想すると、必ず、ビジネスプロセスの改革をどのようにするかの議論になる。顧客とのプロセスをオンライン化する、とか、デリバリーチェーンの構造をどうするか、などなど。
この議論は、「この組織にとって本当に大切な価値とは何か」「何を守り、何を変えるべきなのか」という、極めて本質的な問いへの答えを見出すプロセスとなる。

例えば、こんな議論が想定される。

  1. 工場の不良品率を下げる策を考えようとすると、「なぜ不良が発生しているのか」「どうすれば設計や工程そのものを見直せるか」といった本質的な問いへ立ち返ることになる。構想の過程で工程の見える化や作業標準の再設計が行われれば、不良削減のみならず、教育や技能継承、労働環境の改善にもつながっていく。
  2. スマホでの購入プロセスを検討すると、対面ならではの「やりとり」が失われる。その対応策を考えることになるが、顧客が求めている「自分に合った快適な体験」や「心地よいコミュニケーション」をどのように実現するかなど、本質的な議論ができる。

この構想フェーズにこそ、組織の文化、働く人々の感情、現場で積み重ねてきた知恵や経験が凝縮される。そうした「見えにくい資産」を丁寧にすくい上げ、未来にどうつなげるかを描く作業から本当に意味のある構想が生まれる。

3.構想チームメンバーにデジタル担当は必須

構想チームには、必ずデジタル担当、すなわちBAかシニアSEを入れ、役員レベルの議論にはCIOもしくはCDOを入れるべきだ。その理由は、デジタル担当が以下の仕事をすることで、本質的な議論になるからだ。

  1. 論理的に物事を考えるプロだから、論理的でないことを指摘する
  2. デジタル技術で何ができるか、現行システムとの整合性など意見する
  3. 「このサービスの価値は何か」「顧客が喜ぶか」など、本質的な問いを発する

デジタルは、構想を決めてからソフト開発を委託するものではなく、構想を練るときに一緒に考えてくれる存在だと認識するべきなのだ。

4.構想の過程こそが、組織を強くする

「デジタルを使って構造改革する」という構想フェーズそのものに価値がある。組織の中で、「何のためにこの業務があるのか」「誰にとって、どんな価値を生み出しているのか」といった問いを交わすことは、単なる施策立案を超えて、組織の学びや関係性の質を高める機会となる。現場の声を聞き、経営の視点と擦り合わせながら方向性を定めていく中で、「自分たちの仕事の意味」が再確認される。そのプロセスこそが、人と組織を動かす力になる。

デジタル化は、その問いに真正面から取り組むための契機となる。デジタルを経営改革にぜひ使っていただきたい。

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