【横塚裕志コラム】AIエージェントが 既存大規模システムを修正する日

IMDでAIを専門領域とし、エグゼクティブプログラムの学部長をされているミシェク教授をお招きして、DBICメンバー企業の幹部の皆様とのディスカッションを6月9日に行った。AIのインパクトの大きさを改めて体感したので、感じるところを書こうと思う。

【レポート】IMDエグゼクティブラウンドテーブル ~AI時代のエグゼクティブに必要な「学び」と「進化」~ ▶︎

1.ミシェク教授のメッセージ

「AIは、「電気」と同じレベルの大きな産業革命を起こそうとしている。便利なツールと考えていたら大間違い。「電気」の前後で産業が大きく変貌したのと同様に、AIで既存産業や既存の仕事が大きな影響を受ける。」と言う。

つまり、既存事業が「AIディスラプション」の大波を受けるということだ。「AI後に」生き残るために、何をすればいいのかを考えてください、という重大なメッセージと受け止めた。

2.「電気」で何が起きたか

では、「電気」で何が起きたのだろうか。「電気」の前と後では、全く企業のビジネスモデルが変わっている。AIでも、自社のビジネスモデルを大きく構造的に変化させることができないと、生き残れないということだろう。

  1. 工場の設計と生産方式の根本的変化(大量生産・無人化・24h稼働を実現)
  2. 新たな産業の創出(発電・送電・家電・電化製品など新しい商品を生み出す)
  3. サービス業の劇的変化(金融機関、小売業などサービス内容や規模が劇的変化)
  4. 都市インフラの近代化(電車・地下鉄・街灯など)

工場が変化する経緯がとても興味深い。エンジンを電気に変えただけでは効果は出ず、小さいモーターにして「流れ作業」というプロセスを「発明」してから、生産効率が爆上がりして、電気が普及し始めたという話を読んだことがある。つまり、新しい技術というのは、前のままのプロセスを一部代替する程度では効果は上がらず、根本的にモデルを変えることで大きな改革ができるというお手本のような話だ。

3.AIで産業構造がどのように変わるだろうか

では、AIという新技術でどのように産業を変えることができるだろうか。一部代替ではなく、根本的なモデル替えを私なりに以下に考えてみた。

  1. 医療業界
    • 画像診断や診療記録分析をAIが行い、医師は最終判断のみ。
    • 患者ごとにパーソナライズされた治療計画が可能に。
    • 遠隔医療やAIチャットによる一次診断で、医療アクセスの地理的制約が消滅。
  2. 保険業
    • AIが商品開発を行い、ニッチ・マイナーな分野も含め多数の商品がつくられる
       (商品開発・マーケティングはAIが担当)
    • 顧客がAIエージェントを使って、リスクを調べ、カバーの範囲を決める
       (顧客と保険会社とは両者のAIエージェント同士で会話する)

4.今、足もとで起きていること

例えば、ソフトウェア開発の自動化という動きがある。
AIエージェントに趣旨を伝えるだけで、趣旨に沿ったプログラムを自動的に作成することが始まっている。「Windsurf」に「保険申し込みシステム」と入れるだけで、あっという間にプロトタイプができあがる。

  1. 予測される変化
    既存企業にとっては、自社が保有する既存大規模システムをAIエージェントが修正してしまう日が来ることは、素晴らしく便利なことだ。既存大規模システムは、技術的に古いし、複雑な構造をしているから、簡単ではないと思われるが、所詮、論理的にできている世界だから、真剣に取り組めば2、3年で実現できるだろう。但し、ベンダーお任せで様子見している会社は、はるかに遅れてしまうだろう。
    自動化されれば、SEは不要になる。すでにGPTによれば、米国の求人情報サイトIndeedによると、2025年2月時点で米国のソフトウェア開発者の求人掲載数は、2020年の水準から33%減少し、過去5年間で最低となっているとのこと。また、SalesforceのCEO、Marc Benioff氏は、AIによる生産性向上により、2025年にはエンジニアの採用を停止する可能性があると述べている。
  2. システム開発の超スピード化がビジネスを大きく変革する
    ソフトウェアがかなりのスピードでそれも超低コストで開発・修正できるとなると、商品やサービスを劇的に速く提供することができるようになるだろう。 どんな時代が来るのだろうか。
    1. 商品・サービスの変革
      アイデア次第で、数多くの商品・サービスが提供できる。具体的には、お客様ごとにパーソナライズ化していく方向性と、ニッチとかマイナーな分野に拡大していく方向性があるように思う。この企画力が勝負になりそうだ。しかしこの企画業務もAIがやるようになるのかもしれない。
    2. 会社の規模が優位にならない
      商品開発への投資が少なくて済むうえに、ネットの中でビジネスが完結するプロセスにすればバックオフィスの業務も不要となり、小規模の会社でもアイデア次第で大きなインパクトが持てる可能性が出てくるのではないだろうか。

5.ミシェク教授のアドバイス

教授からは数多くの示唆をいただいたが、重要なメッセージは以下のことだと思う。

  • AIの無限の可能性を想像しまくれ
    AIの進化はすさまじい。どんな新しいビジネスが可能かを猛烈に考え続けることが必要だ。それも、AIを使いながら、その能力を感じつつ、発想を飛ばすことが重要だと主張された。セキュリティの問題とか、フェイクの問題とか、ネガティブな情報もあるが、それに惑わされることなく、むしろ、企業としてAI後のビジネスモデルをどのようにするかに注力すべきだ、ここが競争だと。
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